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サントリー学芸賞

選評

政治・経済 1997年受賞

関 満博(せき みつひろ)

『空洞化を超えて ―― 技術と地域の再構築』を中心として

(日本経済新聞社)

1948年、富山県小矢部市生まれ。
成城大学大学院経済学研究科博士課程単位取得。
東京都商工指導所、東京情報大学経営情報学部助教授等を経て、現在、専修大学商学部助教授。
著書:『上海の産業発展と日本企業』(新評論)、『中国市場経済化と地域産業』(新評論)、『中国長江下流域の発展戦略』(新評論)、『フルセット型産業構造を超えて』(中央公論社)など。

『空洞化を超えて ―― 技術と地域の再構築』を中心として

 関満博氏の業績は、日本の中小企業、地場産業から中国を中心とするアジアの地域産業の研究に至るまで、徹底した現場情報の収集、分析に支えられており、これまでの著作数は20点を超える。
 『空洞化を超えて』は、『フルセット型産業構造を超えて』(1993年)において提示された「技術構造の三角モデル」をさらに深化させ、「マニュファクチュアリング・ミニマム」の概念を導入しながら、国や地域の産業構造のあり方に対して貴重な分析を行ったものである。この「ミニマム」の概念は、一国や地域が「創造的なモノづくりをしていけるための技術的な最小限の組み合わせ」と定義される。例えば、ある新たなモノを創造していく際に、それに必要な加工機能の一部が劣化していると、全体のレベルがそのレベルに低下せざるをえない。従って、どのような産業であれ、最低限の基盤技術、中間技術、専門技術が一つの地域に集積していないと、創造的なモノづくりに支障を来すと言うことになる。そのような「ミニマム」を備えた地域同士がネットワークを形成しながら、地域間分業、国際分業を指向すべきだというのが関氏の主張である。これは、従来の地域間、国際間分業の考え方の不備を補った新鮮な概念であり、国や地域の産業振興への新たな方向性を示したものとして高く評価できる。
 関氏は、これまで、新たな仮説や知見を現場に赴いて、そこで得られた第一次情報をもとに確認するという極めて地道な研究スタイルを堅持してきた。たとえば、最近の中国産業研究の三部作、『中国長江下流域の発展戦略』(1995年)、『中国市場経済化と地域産業』(1996年)、『上海の産業発展と日本企業』(1997年)は、関氏が何度も中国の長江下流域に赴き、足で稼いだ情報を中心に、中国の産業構造や技術構造の分析を展開した大作である。アジア、特に中国と日本の関わり方が重要な意味を持つ今日、関氏の膨大な現場情報とそれに基づく産業分析の集積は非常に貴重である。新聞情報など、二次情報をもとに分析する研究者が多い現在の状況からすれば、関氏のこのような地道な努力は大いに評価されて良い。
 以上の理由により、選考委員会は関氏の『空洞化を超えて』を中心とする最近の一連の業績に対して、サントリー学芸賞受賞に値するという見解で一致したものである。

中谷 巌(一橋大学教授)評

(所属・役職等は受賞時のもの、敬称略)

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