選評
政治・経済 1984年受賞
『研究開発と設備投資の経済学 ―― 経済活力を支えるメカニズム』
(東洋経済新報社)
1951年、和歌山県生まれ。
一橋大学経済学部卒業。
日本開発銀行に入行。同行設備投資研究所、ハーバード大学およびペンシルバニア大学の客員研究員を経て、現在、大蔵省大臣官房財政金融研究室主任研究官。
投資はいうまでもなく、経済成長の原動力である。消費や公共事業でも一時的には景気がよくなり、経済成長率が上昇するけれども、民間投資が不活発では、成長は長続きしない。米国経済の最近の好調ぶりは、何といっても、民間投資が活性化したところにある。
ところで、一口に投資といっても、その行動を分析し予測することは難しく、ケインズは企業の投資行動をたとえてflighty birdのようだといった。現代では、設備投資に加えて研究開発投資が重要な役割をもっており、また公害防除のための公害関連投資、省エネルギーあるいは脱石油のためのエネルギー関連投資も大切である。
竹中氏のこの著作は、投資がもつ多面性を理論・実証の両面にわたって、総合的に分析しており、最近にない出色の研究となっている。理論面では、設備投資行動を新規投資と株式取得による企業買収を統一的にあつかう(いいかえれば、経済学的分析と経営学的分析とを統合した)トービンのq理論から始まって、これを従来からの新古典派の理論と結びつけたエイベル流の議論は、設備投資行動を理解し、租税政策の効果を論じる上で有用である。
著者は、全体の流れをよく把握した上で、日本の設備投資の分析に応用し、日米比較を行っている。たとえば、投資環境をあらわす指標が変化したときに日米企業がどのような反応速度を示すかを計測し、日本企業はその反応速度が、米国企業の倍近いという結果を得ている。
研究開発投資をめぐる議論としては、それがどのように技術進歩と結びつくのか、開発投資の収益率はどう決まるのか、といった問題があり、このあたりは、理論的に明確ではないけれども、いくつかのファクト・ファインディングとともに問題提起的で興味深いものがある。
もとより資本投資という変幻きわまりない経済行動を、一つの単純な理論で説明することはできないが、本書の優れたところは、そうであるにもかかわらず、果敢に多方面から攻めていることだ。著者は以前に日本開発銀行設備投資研究所に勤めていただけに、研究上の有利さがあったことは確かだが、この研究に示される総合性と経済問題全般への目配りの広さ、バランスのよさは、竹中氏の研究者としての資質を充分に語っている。
森口 親司(京都大学教授)評
(所属・役職等は受賞時のもの、敬称略)