選評
政治・経済 1983年受賞
『国際マクロ経済学と日本経済 ―― 開放経済体系の理論と実証』
(東洋経済新報社)
1951年、静岡県生まれ。
東京大学理学部卒業、マサチューセッツ工科大学大学院修了。
ブリティッシュ・コロンビア大学助教授を経て、現在、大阪大学経済学部助教授。
70年代以降の経済学、とくにマクロ経済学には、インフレーションと大量失業をかかえる米国を中心に、批判の波がまきおこった。マクロ経済政策の有効性にたいする否定論もいきおいをました。社会科学のなかで、高いディシプリンをほこった「女王」としての経済学は、他の諸分野なみの混沌ぶりを示したかにみえる。わが国の経済学も、この大波の洗うところとなったが、結局のところ、教科書的現実ばなれのした単純なモデルで経済政策の有効性を否定してみても、経験科学としての経済学の前進は始まらない。
たいせつなのは、通貨の相対価値が変動し、金利が世界的に連動する現実において、マクロ経済学を体系化することである。マクロ経済学を、国際金融・外国為替市場を包摂するかたちで構成し、その上で、マクロ政策のありかたを議論することが、なによりも必要なのである。植田和男氏の『国際マクロ経済学と日本経済』は、こうした時代の要請をふまえた意欲的な労作である。
まず選者としては、氏の透徹した整理・展望の能力を高く買う。70年代(とくに後半)の混沌からぬけだして80年代の収束をはかるには、これは、是非ともやらなければならない作業であり、植田氏はこれをその著書だけでなく、いくつかの論文においてみごとになしとげている。
さらに本書では、為替レートの変動が国際収支におよぼす影響、為替レートの決定における貨幣的要因と実物的要因の検討、米国の高金利が、世界の金融・為替市場におよぼす影響など、現実の興味ある問題について、いろいろなモデルを適用し、実証的な吟味をすすめている。理論と実証両面にこれだけさえた腕前をしめす学者(それも32才の新進)はただものではない。
わが国から、世界の経済学へ貢献をなしうる新しい世代の代表選手がひとり誕生したといえる。だが、透徹した展望能力はしばしば創造的努力の敵である。このふたつを両立させるための精進をおおいに期待したい。
森口 親司(京都大学教授)評
(所属・役職等は受賞時のもの、敬称略)