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サントリー学芸賞

選評

社会・風俗 1982年受賞

浜口 恵俊(はまぐち えしゅん)

『間人主義の社会 日本』

(東洋経済新報社)

1931年、和歌山県生まれ。
京都大学大学院教育学研究科博士課程単位取得。
米国イースト・ウエスト・センター高等研究員、龍谷大学文学部助教授を経て、現在、大阪大学人間科学部助教授(社会心理学専攻)。
著書:『「日本らしさ」の再発見』(日本経済新聞社)など。

『間人主義の社会 日本』

 日本人は個人の主張をある程度抑制して自分が属する集団内の調和を第一に考える傾向がある。
 この傾向は日本国内では普遍的なので、あたかも深海魚が海水の存在を終生意識しないように、これまで日本人は特に意識しなかったが、海外諸国との交流が活発化するに伴い、欧米人の目で日本人を見ると一体どんな特徴があるか、という意味で最近は国民的規模での大きな関心事となってきた。
 その昔、和辻哲郎はこの傾向を論じて「人間(じんかん)」と名づけ、近時では精神医学者木村敏は「人と人との間における自分」という分析概念を提案した。著者はそれを「間人主義の日本人」と名づける。日本人は欧米的な“個人”という「人間観」は持っていないし、したがってまた個人と個人がギブ・アンド・テーク的に契約する相互関係もあまり設定しない。それぞれの人は他の人とのなんらかの紐帯のなかに、みずからの存在意識を見いだすのであって、日本人の言う「我」は自己基準をもった我ではなく、むしろ「汝の汝」であるから、いうならば日本人は人間ではなく「間人(かんじん)」であると説く。
 そうした傾向から日本人の対人関係には①非利得性(非手段視)②縁による限定③相互依存性④情宣性(心情性)等々が観祭されるが、その結果欧米では当然のことが日本では不当視されたり、またはその逆になる。また面白いことに欧米のモノサシからは非近代的とされるそうした人間関係が、近代社会の建設に際してブレーキとならず、むしろ有効でもあったとみる。
 こうした観察からさらに筆を進めて、流行の日本人論は一体どういうモノサシを使って欧米と日本の比較をすべきかについても論じている。これまでの社会科学は無意識または無条件に西洋起源の概念や理論を使用しており、その結果、日本人は個人主義ではないから、直ちに集団主義とされるが、個人主義の反対概念は集団主義とは限らないので、その中間に間人主義という文化的なモノサシが新たに必要だと提案している。
 また、F・L・K・シューが提案する、血縁と契約が共存する「縁約の原理」が日本のイエ社会の組織原理で、これも近代化に貢献したとといている。もっとも欧米の文明・文化の浸透や海外旅行の増加によって日本社会や日本人は最近大きな変化を始めており、だからこそ陸に上がった深海魚の如く、日本人自身にも日本の間人主義やイエ社会はやや不思議なものに思えるようになっている。
 今後は日本の間人主義の歴史的由来、それが有力である時代と地域の範囲、その指摘から産出される各論等の収穫には何があるか、が期待される。

日下 公人(日本長期信用銀行参与)評

(所属・役職等は受賞時のもの、敬称略)

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