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サントリー学芸賞

選評

思想・歴史 1981年受賞

吉沢 英成(よしざわ ひでなり)

『貨幣と象徴 ―― 経済社会の原型を求めて』

(日本経済新聞社)

1941年、東京都生まれ。
東京大学大学院修士課程修了。
東京大学助手、甲南大学経済学部助教授を経て、現在、甲南大学経済学部教授。

『貨幣と象徴 ―― 経済社会の原型を求めて』

 思想上の業績において重要なのは、既に完成された学問体系について文献学的な手法により精緻な歴史的・理論的な分析を行うよりも、むしろ既成の理論にとらわれない新鮮な眼で現実の事象を考察し、新たな視点にもとづく理論構成によって従来の学説的通念を批判し、できればこれを変革することである。歴史における学問の発展を促進してきたパラダイムの変換はすべてそのようなかたちで行われてきた。
 本書は、日常的経済の面でもきわめてありふれた現象であり、伝統的な経済学説では一般的に単なる交換や流通の手段として副次的にのみ見なされてほとんど疑われなかった貨幣というものの本質について、構造主義的な人類学の知見を援用しながらあらためて根本的な考察を行い、そのシンボル的機能を明らかにすることによって、貨幣がもともとシンボル的存在である人間のシンボル的構造を持つ社会にとって根源的な意味を持つことを明らかにして貨幣に関する従来の通念の徹底的な修正を迫り、さらにそれを通して経済社会の原型をさぐることによって経済学そのもののよって立つ視座の改革を提示しようとする、きわめて野心的で、ある意味でははなはだ挑発的な試みである。その行論と叙述において明晰と洗練に欠けるところがあり、概念操作においてなお熟しないところも目立ち、さらに経済学プロパーの立場から見れば理論的な弱さも指摘されようが、狭い学問領域の壁を超えた博大な勉強によって補強されたその思想的な独創性は高く評価されるべきであり、また著作の背後にうかがわれる資質の豊かさは著者の将来の学問的発展を期待させるに充分である。

中埜 肇(筑波大学教授)評

(所属・役職等は受賞時のもの、敬称略)

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