選評
政治・経済 1980年受賞
『日本経済展望』への寄与を中心として
(日本評論社)
1933年、神戸市生まれ。
東京大学経済学部卒業。
経済企画庁入庁ののち、調整局産業経済課長、同物価局物価調整課長などを経て、現在、経済企画庁経済研究所総括主任研究官兼官房付。
著書:『現代金融の動態』(東京大学出版会)など。
香西氏は、わが国の代表的官庁エコノミストとして、これまでにも『現代金融の動態』などの著作のほか、日本経済の諸側面にかんするすぐれた研究や評論活動に従事してこられた。氏の業績の特色は、第一に研究領域が広汎なことであり、第二に、間口が広いにもかかわらず、経済理論的基礎が堅固であって、いわゆる官庁エコノミストの間に時としてみられる仲間うちだけにしか通用しない用語や観念に頼る傾向を排して、世界に通用することばで議論を展開していること、そして第三に、理論家にありがちな過度の一般化や理論的韜晦といった傾向から自由であって、現実がくり出す新しい問題へのしなやかな対応と理論に裏付けられた分析の明快さというたぐいまれな美質の組合わせを有していること、である。
今回、受賞の契機となった『日本経済展望』(荻野由太郎氏との共著)は、以上のようなエコノミストとしての資質を発揮して80年代の日本経済への展望を試みたものであって、経済成長の諸条件の体系的検討から始まって、産業構造・大企業体制の考察から教育・医療などの新しい経済社会問題に切りこみ、70年代の諸体験から経済政策の役割を評価する、といった意欲的なものである。
限られたページ数の中に余りにも多くをつめこんだ感がないでもないが、コンパクトにまとめられた分析の行間には、氏の理論的基礎の広さと社会科学者としての鋭い目くばりが読みとれる。たとえば、日本経済の組織的考察を試みた第15章「市場機構・企業・官僚制」では大企業体制の寡占化と官僚組織の肥大化を背景として、組織間の相互浸透による「日本的経済・行政システム」ができ上がって行く過程を分析し、その評価をこころみている。このあたりは、氏が単にエコノミストであるにとどまらず、視野の広い具眼の士であることをよく示している。
森口 親司(京都大学教授)評
(所属・役職等は受賞時のもの、敬称略)