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サントリー地域文化賞 サントリー地域文化賞

活動詳細

広島県

広島県 広島市 2023年受賞

広島文学資料保全の会
貴重な文学資料の調査・収集・保全を続け、「広島文学」の意義を発信

代表:土屋 時子 氏

2023年11月更新

活動紹介動画(02:00)
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広島文学資料保全の会

 広島は戦前には鈴木三重吉、倉田百三などを輩出し、戦後は大田洋子、原民喜、栗原貞子、峠三吉といった作家たちが原子爆弾による惨禍と対峙しつつ、優れた文学を生み出してきた。「広島文学資料保全の会」は、こうした広島ゆかりの作家、特に被爆作家たちによる肉筆原稿、書簡類、所有していた書籍等の資料の調査・収集を行っている。

 発足は1987年。広島市に文学館設立を求める市民運動として始まった。6,000人の署名と文学資料2万点を集めたが願いは叶わず、資料は広島市立中央図書館に寄贈されることになった。市はこれを基に図書館内に「広島文学資料室」を設置。しかし図書館は博物館などの資料保管を目的とする施設とは機能が異なるため、専門の学芸員はおらず、恒温恒湿の収蔵庫もない。そのため本会は、図書館を一時的な「避難場所」と位置付けつつ、これ以上の散逸を防ぐべく、作家の遺族らが保有する資料を発掘・整理し、中央図書館等へ寄贈する橋渡し役を務めてきた。作家の遺族らと丁寧に関係を築いてきたことで、本会には厚い信頼が寄せられている。2009年には広島女学院大学の栗原貞子記念平和文庫開設に尽力。2022年には峠三吉の遺族が資料のより良い活用方法を検討し、全ての著作権管理を本会へ委譲した。

 本会は、市民が「広島文学」と出会い、より深く知るための場づくりにも大きな役割を果たしている。広島文学に関する本の出版を行うほか、年に数回、文学資料展・シンポジウム・交流会・朗読会・演劇・文学散歩などのイベントを実施している。2002年から毎年8月15日に開催する「原爆・反戦詩を朗読する市民のつどい」では、文学作品と音楽を組み合わせたプログラムなど、様々な形でその魅力を紹介している。また平和記念公園にある峠三吉詩碑の前で行う朗読会や旧広島陸軍被服支廠(戦時中は軍服等の製造・貯蔵を担い、被爆直後は臨時救護所として使用された施設)で開催するトークイベントなど、広島の歴史を感じられる場所でのイベントも好評だ。

 2015年からは広島市と共同でユネスコ「世界の記憶」への「広島の被爆作家による被災直後の資料」の登録に向けた申請活動を展開している。この活動を通して、広島に遺された文学資料は、人類が忘れてはならない歴史的文書であり記録であることを国内外に訴えるとともに、地域の文化的な財産であることをあらためて市民に伝えたいと考えている。

 戦後70年以上を経た今だからこそ、その記憶を時代や地域を超えて人々の感性に訴える文学の力がますます見直されている。より多くの市民がその素晴らしさに触れるためのつなぎ役として、本会は広島の中核にいる。

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