活動詳細
三重県 鈴鹿市 2023年受賞
伊勢型紙技術保存会
着物の染色に用いる型紙の精緻な手彫り技術の練磨と伝承者の育成に努める
代表:内田 勲 氏
2023年11月更新
「伊勢型紙」とは着物などの生地に模様を染色するための工芸用具で、型地紙と呼ばれる特殊な紙に彫刻刀で精緻な模様を彫ったもの。この型紙を用いて生地に糊を置くと、染めたときに糊の部分が白く残り模様となる。江戸時代中期以降、現在の三重県鈴鹿市の白子・寺家地域で発展した伊勢型紙は、小紋やゆかた、手拭いなどを染めるために欠かせない用具として全国的に流通した。
布地に芸術的な模様をうつしだす伊勢型紙には、「突彫」「錐彫」「道具彫」「縞彫」の4つの彫刻技法と、染色の際に型紙を補強する「糸入れ」という技法があり、職人は一つの技法を生涯をかけて極める。
この技術を継承するため、1963年に鈴鹿市による「伝承者養成事業」がスタートし、職人による若手の指導が始まった。1991年、同事業を引き継いで「伊勢型紙技術保存会」が発足。1993年に国の重要無形文化財保持団体に認定された後も市が事務局を務めており、同会の「会員」と認定された者は伊勢型紙の「わざ」の保持者とされる。
会の発足当初は、修業中の業界関係者を対象に指導を行っていたが、着物離れが進み型紙の需要が減る中、受講者も減少したため、2003年からは公募した未経験者を対象に「伊勢型紙技術伝承講座」を開催するようになった。かつての職人は師匠が専門とする技法のみに接し、この講座でも受講生は自らの専門技法を選択するが、保存会の様々な活動を通して他の技法に自然と触れる機会があるため、伊勢型紙についてより包括的に知ることが出来る。講座は白子の型紙問屋だった古民家を活用した「伊勢型紙資料館」の一角で行われ、受講生は型紙を彫るための彫刻刀づくりから修業を始め、「研修生」、「研修者」、「伝承者」、「会員」と昇級してゆく。技術の習得に長い年月を要するため、新たな「会員」が生まれないことが長年の課題だったが、2023年に公募者から初めて7名(40~60代。男1名、女6名)の新会員が誕生し、会員はそれまでの12人(60~90代。男11名、女1名)から19名となった。
伊勢型紙は染色を支える裏方の道具であるが、鈴鹿市内の小学校では授業や課外学習で伊勢型紙を学ぶほか、彫刻体験をする機会も充実しており、郷土が誇る文化として市民に親しまれている。また近年の研究で、伊勢型紙の斬新なデザインが19世紀後半に海外の多くの画家や工芸家に影響を与えたことが明らかになり、伊勢型紙をインテリアや日用品などに活用する試みも進んでいる。こうした背景に加えて、伊勢型紙技術保存会に新たな会員が誕生したことで、伝統ある技術を継承しつつ伊勢型紙の世界をより広げる活動が展開されることが期待される。