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サントリー地域文化賞 サントリー地域文化賞

活動詳細

関東

東京都 武蔵野市 2022年受賞

生態工房
各地の「かいぼり」を支援し、地域住民による豊かな水辺再生を先導

代表:片岡 友美 氏

2022年10月更新

活動紹介動画(02:00)
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生態工房

 かつて日本の多くの農村で行われていた「かいぼり」。ため池の維持管理のため、地域住民が定期的に集まって、池の水を抜き池底の泥をさらって天日干しする共同作業であり、江戸時代の史料にも人々が楽し気に魚や生き物を捕まえる様子が描かれている。しかし、減反政策や農業従事者の減少によってため池の管理が行き届かなくなるなどした結果、この慣習は多くの地域で途絶えていった。それが1990年代になると、水質改善や外来種駆除に有効とされるようになり、これらの課題を抱える公園や自治体などが池や濠でかいぼりを行うようになった。

 生態工房は、都立光が丘公園で自然保護区域の管理運営を行う任意団体として1998年に発足。活動を拡充する中で、生態系に悪影響を及ぼす外来種を駆除するかいぼりが生物多様性の回復にも効果が高いことを知り、都会の池での実践を目指すようになった。2010年、外来魚と水質悪化が問題視されていた都立井の頭恩賜公園の井の頭池で、東京都が2013年度のかいぼりの実施を決定。生態工房は、市民協働のコーディネートを委託された。

 実施にあたっては、地域住民がやりがいを持ちながら楽しく参加することを目指した。活動の核として「井の頭かいぼり隊」というボランティアメンバーを募り、準備段階から実施後の池の保全まで継続的に活動する仕組みを作った。

 さらに池干し期間には池底探検ツアーの開催や、生き物を展示する解説所の設置、かいぼりの成果報告会の開催と、様々な人たちがかいぼりを知り、関わるための工夫を凝らした。都会の多くの住民にとって、かいぼりによって絶滅したと思われていた水草が復活したり、都内でも希少なトンボや水鳥の巣づくりを間近で見られるようになったことは新鮮な驚きで、かいぼりの意義と池の価値をあらためて知る機会となった。

 この井の頭池での活動が、地域住民と共に行う生態工房流のかいぼりのモデルとなった。その後井の頭池では2015年度、2017年度にもかいぼりを実施した他、「井の頭かいぼり隊」によるモニタリングや来園者向けの自然ガイドツアーなどの活動を継続受託している。近年はかいぼりに対する関心の高まりから問合せも増え、関東地方の自治体や長野県の団体にも支援を行っており、水辺再生に取り組む住民の輪も着実に広がっている。

 生態工房が行うかいぼりのキャッチフレーズは「よみがえれ!わたしたちの池」。かいぼりの復活は、地域の水辺が住民同士の繋がりを保ち、身近な自然を見つめ直すというかつての役割を取り戻すことにもつながっている。古くて新しい水辺の楽しみを伝える先導者として、生態工房の今後一層の活躍が期待される。

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