活動詳細
岐阜県 瑞浪市 2020年受賞
美濃歌舞伎博物館 相生座
歌舞伎の技術や衣装などを保存継承し、美濃の地歌舞伎振興に貢献
代表:小栗 幸江 氏
2021年1月更新
街道沿いに多くの宿場町が栄えた美濃地方では、江戸時代には地歌舞伎が各地で盛んに行われていた。江戸や大坂などの都市で興行的に演じられる大歌舞伎とは異なり、美濃では年中行事の一環として素人が演じていた。そのため個人が歌舞伎のための豪華な衣装を所有することが難しく、衣装専門の業者が代々貸衣装を管理していた。しかし戦後、地歌舞伎の人気が陰るとともに衣装屋の経営も難しくなり、貴重な衣装が散逸していった。
そのような中、岐阜県瑞浪市でゴルフ場を経営していた小栗克介(かつすけ)氏と長女の幸江(さちえ)氏は、地元の衣装屋が廃業するのにともない、地歌舞伎の衣装やかつらなどを譲り受けた。これを機に1972年、「美濃歌舞伎保存会」を発足させてゴルフ場の職員らとともに地歌舞伎の上演を始めるようになった。1976年には解体寸前だった県内の2つの芝居小屋を敷地内に移築復元し、現在、保存会の活動拠点としている「美濃歌舞伎博物館 相生座」が誕生した。劇場のこけら落しでは、父娘と交流のあった市川猿之助(現・猿翁)氏の一座が、ロウソクを灯りに用いた江戸時代の舞台を再現して大きな話題を呼んだ。以後、相生座では毎年9月に美濃歌舞伎保存会の定期公演を行い、全国各地から多くの見物客が訪れる。
父から相生座の館長を継いだ幸江氏は、役者、脚本、太夫、三味線から衣装やかつらの修繕、着付けまでに精通し、知識も豊富な地歌舞伎界のエキスパート。子ども向けの歌舞伎教室で次世代の育成を行うほか、他の団体の公演の際には衣装を貸し出して着付けを行うなど、地域の地歌舞伎の振興にも尽力している。
相生座では、実際に使用される約4000点の衣装や小道具を修繕しながら保存し、一部は劇場内にも展示するなど、まさに地歌舞伎の生きた博物館となっている。相生座と美濃歌舞伎保存会の活躍によって、地歌舞伎の魅力が改めて理解されるようになり、一時はすたれていた活動が各地で再開されるようになった。現在、岐阜県内には全国最多となる32の地歌舞伎団体が活動している。また、ヨーロッパやハワイなどの海外のフェスティバルやシンポジウムにも積極的に参加し、公演や着付け体験などを通じて歌舞伎の魅力を伝える活動にも力を注いでいる。
かつて人々の往来によって美濃の地にもたらされ、地域に豊かな文化を育んできた美濃の地歌舞伎は、相生座の活動によって現代にも活き活きと継承され、さらに国境を越えた文化の交流にも大きく資しているのである。