活動詳細
宮崎県 高千穂町 2019年受賞
高千穂の神楽
365日神楽を上演し続けることで、地域と神楽を元気に
代表:後藤 俊彦 氏
2019年10月更新
険しい山々に囲まれ、日本神話ゆかりの地として知られる宮崎県高千穂町では、夜を徹して氏神に神楽を奉納する「夜神楽」が毎年冬季に行われる。記録によると、鎌倉時代初期には既にこの地で神楽が行われていたという。
新穀収穫に感謝を捧げ、五穀豊穣を祈願するこの祭りは、個人宅や公民館などの「神楽宿」へ各集落の氏神を招いて行われる。集落ごとに多少の違いはあるが、夕暮れ時に神楽が始まり、20名前後の奉仕者殿と呼ばれる舞手が笛や太鼓に合わせて33番ある舞を奉納し、翌日の昼前後に終了する。また、祭りの準備や見物客に酒や食事を振舞うために、奉仕者殿以外にも大勢の住民が駆けつける。国内外から一晩で500人近くの見物客が訪れるという。現在は、毎年11月から翌年2月にかけて、このような夜神楽が21の集落ごとに奉納されている。
また、そうした各集落での夜神楽とは別に、観光客向けの「高千穂神楽」を1年365日高千穂神社にて上演している。33番の舞から代表的な4つを短くまとめて1時間で公開しており、多い日には100人以上が訪れるほどの人気ぶりだ。名勝高千穂峡を擁するこの町には、元々多くの人が訪れていたが、「観光客のために、夜間の観光スポットをつくりたい」という旅館関係者の声を受けて観光協会が主導し、1972年から現在まで50年近く休まずに続けている。演者を務めるのは、各集落の奉仕者殿たちである。一年を通して舞を披露する機会があるため、技芸の向上や、モチベーションの維持につながり、後継者の育成に大きな役割を果たしているという。
農業が主要産業である高千穂にとって、神楽は重要な神事であると同時に、人々が集い・楽しむことができる、地域になくてはならない存在だ。奉仕者殿はもちろん、準備やふるまいを行う地域住民もみな大の神楽好き。集落によって舞には違いもあるが、皆が「うちの神楽が一番だ」と笑う。人口減少が進む中でも、奉仕者殿の人数は初心者も含めて500人あまり。そのうち、約140人は10代から20代の若者である。
中には人手不足に陥る集落もあるが、そうした地域では夜神楽の代わりに「日神楽」として日中に短い舞を奉納するほか、他集落の奉仕者殿に助っ人として参加してもらうなどして神事としての神楽を続けている。また、兼業農家の増加に伴い、旧暦を基準に行っていた夜神楽を休日に開催するようになった集落も多い。さらに、未来への神楽継承のために集落同士の連携を強めようと、2017年に「高千穂の夜神楽伝承協議会」を設立。ユネスコの無形文化遺産登録を目標に掲げている。このように、高千穂の人々はこれからも伝統に誇りをもちながら、祭りを楽しみ、柔軟に活動を続けていくだろう。