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サントリー地域文化賞

活動詳細

近畿

滋賀県 長浜市 2019年受賞

冨田人形共遊団
外国人への人形浄瑠璃の指導を通じ、日本文化を伝える

代表:阿部 秀彦 氏

2019年10月更新

活動紹介動画(02:00)
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冨田人形共遊団

 琵琶湖北東の農村・富田。20戸ほどの集落の周りには、見渡す限り田園風景が広がる。江戸時代、大雪で興行ができなくなった阿波の人形一座が、旅費代わりにとここに人形一式を置いていった。それをもとに住民たちが人形浄瑠璃を始め、1874年には滋賀県の興行許可を得て「冨田人形共遊団」を発足させた。近隣の村でも公演を行うなど、地域内外で愛されてきたが、1960~70年代に活動は一時低迷。危機感を感じた青年たちが富田以外の人も入れる形に変え、1979年、新生「冨田人形共遊団」として再出発を果たした。現在は週1~2回練習を行い、夏・秋には地元ホールで定期公演を開催し、年間約30回は各地で芸を披露している。1994年からは海外公演も行うようになり、これまでロシア、ドイツ、アメリカ、ニュージーランドで、計10回以上の海外公演を成功させた。

 転機が訪れたのは、2001年。北米の大学をまわる公演ツアーで出会った学生に、日本においでと気軽に声をかけたところ、同年末に39人の外国人学生が突然来日した。大慌てで地域の人たちに宿泊の協力をお願いし、受け入れたのが好評で、翌2002年から、外国人の大学生がホームステイをしながら人形浄瑠璃を学ぶ「冨田人形サマープログラム」を開始した。

 「冨田人形サマープログラム」では、世界各国から集まった10名前後の学生たちが、6~8月のほぼ毎日、朝から夕方まで人形遣い、三味線、浄瑠璃の稽古をする。団員をはじめ、地域には英語を満足に話せる人はほとんどおらず、学生たちも必ずしも日本語が上手ではない。さらに日本独特の3人での人形遣いは、他人と調子を合わせることが必要で、個人主義の文化で育った彼らは悪戦苦闘する。受け入れる方にも苦労は多いが、必死になって取り組み、成長していく若者たちを応援することは、地域の人たちの楽しみでもある。夏の定期公演では学生たちだけの演目も披露される。2ヵ月間の成果を見届けようと、集落の人口の3倍以上となる300人を超える観客が駆けつけ、熱演に大きな拍手を贈る。

 プログラムの参加者はこれまで14ヵ国、294人にのぼり、卒業生とは帰国後も交流を続けている。中には日本企業に就職したり、日本語教師になるなど、日本との橋渡し役となって活躍する者もいる。近年は、卒業生がインターネットでの公募や海外公演の企画を手がけていて、共遊団の活動の幅を広げてくれている。

 こうした活動が地域の中で注目を集めるようになり、共遊団を応援したいという人たちも増えてきた。だからこそ、共遊団は自分たちの芸を磨き、次世代に伝えていくことを大切にしている。地元の小中学校での講座は20年以上継続していて、2017年には公募による小学生のための人形浄瑠璃教室「ジュニアクラス」を開設した。「冨田人形共遊団」は、これからも多くの人たちに支えられながら、地域で愛される郷土芸能として発展を続けていくことだろう。

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