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サントリー地域文化賞

活動詳細

関東

群馬県 渋川市 2019年受賞

上三原田歌舞伎舞台操作伝承委員会
地域住民が力を合わせ歌舞伎舞台の操作を伝承

代表:長岡 米治 氏

2019年10月更新

活動紹介動画(02:00)
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写真
上三原田歌舞伎舞台操作伝承委員会

 渋川市は群馬県のほぼ中央に位置する交通の要衝で、古くから宿場町として栄えていた。市内ののどかな田園地帯にある赤城町上三原田地区には、世界にも類をみない特殊な機構を持つ「廻り舞台」とも言われる「上三原田の歌舞伎舞台」がある。これは江戸後期に地元の大工・永井長治郎が上方に行って修行をし、帰郷後の1819年に建築したものと伝えられている。

 間口5間(約9m)、奥行き4間(約7m)と、一見小さな茅葺き小屋に見えるこの建築物は、舞台演出のためのいくつもの複雑な仕掛けを備えている。三方の板壁を水平に倒して舞台面を拡げる「ガンドウ返し」、奥行きのある絵を背景に用いる「遠見」、舞台の回転部を回す「柱立式回転機構」、天井と奈落の双方からセリの上げ下げができる「セリヒキ機構」が大きな特徴で、これほど多くの仕組みを持つ農村舞台は他にはないという。

 渋川市赤城町ではもともと地歌舞伎や旅芸人の公演が活発に行われていた。上三原田の歌舞伎舞台も江戸後期に隆盛を極め、明治以降も興行が行われてきた。だが、戦後には歌舞伎以外の娯楽が増え、舞台を維持するための負担も大きいことから、取り壊す計画が立てられた。しかし、この舞台がいくつもの特殊な仕組みを持つ文化的価値の高いものだと判ると、民俗学者、建築学者たちからも注目が集まり舞台の保存が決まった。その後、1960年に国の重要有形民俗文化財に指定され、同じ年に上三原田地区の住民で組織する「上三原田歌舞伎舞台保存会」が結成された。

 現在では、毎年11月に舞台を用いた公演を行い、周辺地域の歌舞伎団体も発表の場として活用している。公演のためには何週間も前から準備が必要で、中でも客席の屋根は「ハネギ」と呼ばれる杉の木を組み合わせた大規模なもののため、住民が交代で作業にあたる。また、複雑な舞台の操作にも熟練の技と多くの人手が必要となる。公演当日は約80人が裏方を務め、奈落、天井裏、平舞台の担当者全員が拍子木の音を合図に、呼吸を合わせて操作する。上三原田では昔から「芝居は見るより見せるもの」と言われる。歌舞伎の舞台を見た人々が感動することで、これらの作業の苦労が報われるという。

 1994年には、舞台の保存だけではなく、その操作技術を次世代に継承していこうと、会の名称を「保存会」から上三原田地区の全世帯が加入する、現在の「上三原田歌舞伎舞台操作伝承委員会」に改めた。

 大工の永井長治郎が舞台を創建して200年となる今年(2019年)は、例年より興行の規模を拡大した「上三原田の歌舞伎舞台創建200年祭」を11月に開催し、地歌舞伎だけでなく現代演劇の公演も計画している。上三原田の歌舞伎舞台は、その操作技術の伝承を通じて地域住民の結束を生み、地域の歴史と伝統に対する誇りを生んでいるのである。

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