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サントリー地域文化賞

活動詳細

九州・沖縄

熊本県 熊本市 2017年受賞

橙(だいだい)書店
書店を核として、市民と作家が地域に根ざした文芸ネットワークを構築

代表:田尻久子氏

2017年10月更新

活動紹介動画(01:59)
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写真

 熊本市の裏通りにカフェを併設した小さな書店がある。木製の本棚やアンティークのソファ、さりげなく置かれた絵や写真など、誰かの居間にいるかのような、ゆったりとした雰囲気の店を切り盛りするのは店主の田尻久子氏。県内での会社勤めなどを経て2001年にカフェ「orange(オレンジ)」を開店し、当初はカフェの一角で雑貨や書籍を販売していたが、幼少時より読書好きだったことから書店経営への想いがつのり、2008年に「橙書店」を開業した。
 棚には小説やエッセイ、詩集、写真集、評論などがジャンルにとらわれずに並ぶ。いわゆる「売れ筋」はなく、田尻氏が読んで納得した本、持ち主に大切にしてもらいたいと思う本だけを扱っている。ふとしたきっかけで立ち寄った客が本のセレクションや店主との対話に魅せられて通うようになり、そんな客同士が店で知り合う。その中には作家や写真家、ミュージシャンなどの「作り手」も多く、いつしか店内で朗読会や音楽ライブ、絵や写真などの展示会が開催されるようになった。30人も入ると肩が触れ合うような店内でマイクを使わずに行われる朗読会やトークイベントは、作者と聴衆の間に親密でリラックスした空気を生む。店主の人柄やこうした文化的な出会いに惹かれ、詩人の谷川俊太郎や翻訳家の柴田元幸、小説家の村上春樹など県外から訪れる著名な書き手も少なくない。
 熊本の地では石牟礼道子や評論家の渡辺京二らが以前から文芸の土壌を培ってきた。それが今、橙書店という場を得て新たな動きを始めている。詩人の伊藤比呂美が熊本の文学を盛り上げようと旗揚げした「熊本文学隊」は橙書店が事務局を務め、石牟礼の文学について語り合い理解を深める「石牟礼大学」と名付けた勉強会を開催する。作家の坂口恭平は店内の決まった席で毎日執筆し、書いたものを真っ先に田尻氏に見せて感想を訊くという。2016年2月には、渡辺の「熊本から新しい雑誌を出そう」という呼びかけに応え、田尻氏が編集責任を務める文芸誌『アルテリ』が創刊された。石牟礼、渡辺、伊藤、坂口ら著名な文筆家のみならず、全国的には無名な地元の書き手も力のこもった作品を寄せ、これまでの3号はいずれも2000冊前後を売り上げた。
 実は、現在の店は2016年10月からの新店舗だ。旧店舗は2016年4月の熊本地震で被災した。地震後には心配した常連客が次々と訪れて片付けを手伝い、1週間で部分的に営業を再開したが、移転を余儀なくされたのだ。本と出会える身近な場であると同時に、人と人が言葉を交わし、文化的交流を生む場としての書店。そんな場所を大切に思う地域の人々に支えられている橙書店はこれからも輝きを増して行くであろう。

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