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サントリー地域文化賞

活動詳細

四国

徳島県 徳島市 2017年受賞

阿波木偶箱まわし保存会
消滅の危機にあった貴重な伝統芸能を継承、調査・研究と普及活動を展開

代表:中内正子氏

2017年10月更新

活動紹介動画(01:59)
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 徳島県は人形浄瑠璃が盛んな地として知られているが、今までは地元でもあまり広く知られていなかったもうひとつの人形芝居がある。それが、「阿波木偶箱まわし」だ。箱まわしとは一人遣いの人形芝居で、人形を箱に入れて担ぎ、家々や人の多く集まる大道などで演じられた。演目は大きく分けて2種類ある。年明けに家々を廻って門付けをし、その年の家内安全や商売繁盛を祈る「三番叟まわし」と、「傾城阿波の鳴門」などの人気演目を大道で演じる「箱廻し」である。
 明治のはじめには県内に200人ほどの芸人がいて、徳島県のみならず全国を廻るほどの人気を誇っていたが、社会変化の波の中で徐々に姿を消していった。郷土の素晴らしい芸能が失われつつあることを憂いた辻本一英氏は、1979年から地元のお年寄りから聞き取りを行ったり、箱まわしの芸人が訪れた場所を訪ねるなどして調査を続け、95年に有志を募り、「阿波木偶箱まわしを復活する会」を結成した。その活動の中で、県内でただひとり「三番叟まわし」を行っている芸人を探し当てた。
 「復活する会」のメンバーの中内正子氏は、彼に弟子入りすることを決意。3年間門付けに同行して芸を学び、2002年に師匠の跡を継ぎ、同会のメンバーで囃子方を担当する南公代氏と共に、正月明けの約2か月間、主に徳島県西部の家々を廻っている。師匠から受け継いだとき、訪問する家は300軒程度であったが、同会による聞き込みや人々の口伝えで、「以前はずっと来てもらっていたから、うちにも来てほしい」という家が相次ぎ、現在は1000軒余りに増えている。新しい年を祝福し、幸せを祈る「三番叟まわし」は、迎える人々にとって家族とともに正月を祝う心楽しい行事である。人形に体の悪いところをなでてもらうとき、人々は神様の使いである人形に手をあわせて拝む。
 2012年に「復活する会」は「阿波木偶箱まわし保存会」に改名、現在の会員数は24人である。会員たちは一人遣いの人形芝居のプロに教えを請い、大道芸である「箱廻し」を習得し、浄瑠璃語りや三味線の練習も行っている。2003年から小中学生を対象に「箱まわし子ども体験教室」を開催。もっと学びたいと希望する子どもたちのために夏期集中講座も開催し、ここを卒業した子どもたち30人がジュニアチームとして、保存会のメンバーとともに県内のイベントや独自公演に参加している。
 保存会では、かつて箱まわしの芸人が廻った家々や地域を訪ねて調査を続け、残っていた人形の収集もすすめている。なかでも、中内氏の師匠から譲り受けた「三番叟まわし」の道具一式は国の登録有形民俗文化財に登録。また人形による正月の祝福芸は徳島にしか見られないことから、「阿波木偶『三番叟まわし』」は県指定の無形民俗文化財に選定され、徳島県の様々なイベントに参加している。
 同会の活動がなければ、確実に滅びていたであろう「阿波木偶箱まわし」は、今や徳島県が誇る郷土の伝統芸能として、多くの人々に愛されている。

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