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サントリー地域文化賞

活動詳細

中国

岡山県 新見市 2017年受賞

新見庄たたら学習実行委員会
中世たたら製鉄を市民参加で再現し、地域のものづくり文化を学習

代表:橋本正純氏

2017年10月更新

活動紹介動画(01:59)
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 良質な砂鉄を産出する中国地方では、古くから「たたら」と呼ばれる日本独自の製鉄が営まれてきた。岡山県北部に位置する新見でも、市内各地にたたらの遺跡が存在し、中世では東寺(京都市)の荘園として、年貢の一部を鉄で納めていたという記録も遺されている。
 たたら製鉄では、砂鉄と木炭を粘土製の炉に入れ、ふいごで風を送って鉄を精錬する。日本刀にも用いる玉鋼(たまはがね)という貴重な鉄もこの方法で作られる。しかし江戸時代後期に近代的な製鉄技術が導入され、新見を含め国内のたたらは徐々に衰退して姿を消していった。戦後にはたたらによる製鉄を行うのは、日本美術刀剣保存協会が刀剣などを製作するために操業する、島根の一箇所のみとなっていた。
 そのような中、新見市では地域の重要な産業であったたたら製鉄について知りたい、自分たちでもやってみたいとの声が高まり、1993年、市の青年会議所が中心となって、中世たたら製鉄の再現操業に踏み切った。その後も市のまつりのイベントとして毎年1回のたたら操業を行い、2007年からは市教育委員会の管轄のもと「新見庄たたら学習実行委員会」が発足した。
 現在でも小規模なたたらの操業は各地で行われているが、新見のように本格的な中世たたら製鉄を忠実に再現し、一般市民も参加できるような場は他にはない。また日本を含め、製鉄は世界各地でその技法の多くが非公開で継承されてきたために、詳細については不明なことも多い。そのため研究者も新見を訪れて、たたらに協力し、自らの研究にも役立てている。
 毎年10月頃の開催に向け、5ヶ月前から薪の調達や薪割りの準備を始め、さらに2~3週間かけて粘土製の炉を造るなど、長い下準備が必要となる。そして迎える操業の当日、安全と製鉄の成功を祈願する神事が執り行われて、炉に火を入れる。続いて、市内外から集まった延べ500名が交代で、一昼夜かけてふいごで炉に送風し、その傍らでは、婦人会が炊き出しを行うなど、地域の人々が様々な形で協力して作業を支えている。
 砂鉄が鉄に変化してゆく過程で、炎の色が微妙に変化してゆく姿は神秘的だ。炉の底から、赤く燃える鉄が火花を散らしながら地面に流れ出す様子に、参加者から大きな歓声が上がる。その後、炉を解体して長時間にわたる操業が終了する。
 何かと効率を求められがちな現代において、古来のたたら製鉄を再現するという壮大な取り組みは、地域の人々の絆と誇りを生み出す貴重な場となっているのである。

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