活動詳細
群馬県 2015年受賞
富岡製糸場世界遺産伝道師協会
世界に誇るべき絹産業遺産の価値を広く内外に普及啓発
代表:近藤 功 氏
2015年10月更新
「富岡製糸場世界遺産伝道師協会」は、地元の人々からさえも忘れられかけていた近代絹産業の足跡を次代に伝えることを目的に、2004年に設立された。世界遺産登録を推進する群馬県が同年から開催している「富岡製糸場世界遺産伝道師養成講座」の初回受講者たちが、自発的に活動を始めたことが誕生の契機である。
当初は富岡製糸場の世界遺産登録に対する人々の関心は薄く、県外のみならず、県内でチラシを配っても受け取ってもらえないほどだったという。しかし伝道師たちの地道な活動によって、2007年に世界遺産の暫定リスト入りするころには、地域が誇るべき文化財として多くの県民が認める存在となっていた。
群馬県では江戸時代から養蚕、製糸の品質向上のために様々な取り組みがなされてきた。さらに明治に入ると、我が国の近代化策の一つとして、海外の技術を導入して富岡製糸場が建設され、当時の主要な輸出品であった生糸の大量生産が可能になった。それに対応して繭の増産も急ピッチで進められ、群馬産の繭や生糸は海外で高い品質を誇るブランドとなり、一時は模造品も出るほどであった。
絹の生産に取り組んできた産業遺産は県内のいたるところに残されている。しかし産業構造の変化とともに、富岡製糸場をはじめとするこれらの絹産業遺産群とその役割は忘れられようとしていた。そんな中で、伝道師協会の活動に触発されるように、絹産業の保護と継承、啓発を行う活動が県内各地で立ち上がり、7団体が参加して「シルクカントリーぐんま連絡協議会」が設立された。また、県も県内各地の絹産業遺産を「ぐんま絹遺産」として登録するなど、産業や観光の振興に活かす試みが次々に始まった。
約250名の伝道師たちは、県や市町村、地元企業と連携してのイベントや学校での解説、蚕の繭から生糸を作る体験学習などを年間300回あまり手弁当で行っている。また製糸場をはじめとする絹産業関連の歴史や文化の調査研究と資料収集を行い、その成果を出版している。
2014年「富岡製糸場と絹産業遺産群」が世界遺産に登録されるにあたって、ユネスコへの推薦書に伝道師協会の活動が市民活動の代表例として記載された。絹産業は日本の近代化の礎であり、世界の絹産業にも影響を与えた日本の財産であると訴え続けてきた、10年に及ぶ伝道師協会の普及啓発活動が登録推進の大きな力となった。
しかし、世界遺産登録は彼らにとってゴールではない。登録後も、協会では県内絹産業遺産群の調査と評価、次世代の伝道師の育成、自立した組織づくりに取り組んでいる。伝道師の一人は「聞いてくださる方の関心に合わせてお蚕さんや生糸の話をするのは楽しいんです」と話す。それぞれの土地の絹にまつわる文化、歴史を丹念に見直し、市民一人一人に魅力的に語りかけていく伝道師たちの地道な活動はこれからも続き、地域の活性化にも繋がっていくことが期待される。