活動詳細
島根県 松江市 2014年受賞
美保神社大祭奉賛会
厳しい精進を守りながら、「国譲り神話」を再現する祭礼を継承
代表:木村 隆之 氏
2014年9月更新
古代出雲神話のクライマックスの1つである「国譲り」を再現したとされる祭事が、島根半島東端にある美保関の小さな入り江で毎年行われる。12月3日の「諸手船(もろたぶね)神事」は国譲りについての返答を迫る使者がコトシロヌシの元に向かう様子を、4月7日の「青柴垣(あおふしがき)神事」は国譲りを決断したコトシロヌシが「天の逆手(あめのむかえで)」を打って青柴垣に隠れ、その後に神として再生する様を表現する。島根県下には出雲神話に関係のある神社が多くあるが、「国譲り神話」にもとづいて営まれる祭事はこの美保神社大祭のみである。
美保神社大祭を特別な存在にしているもうひとつの点は、「青柴垣神事」でコトシロヌシとその母ミホツヒメを演ずる2名の当屋、祭事を主宰する1年神主である「頭人」はじめ、祭事で中心的な役割を担うメンバーが行う厳しい精進潔斎だ。禊として裸で海水につかる潮カキをした後、子の刻に美保神社へ参拝するが、参拝道中で他人出会うと「穢れた」ことになり再度やり直す。夫婦別床、また食事も家族とは別に特別な箸と膳でとり、コトシロヌシが嫌ったという鶏肉鶏卵は食べない。また死穢を避けるために親族の葬式にも出ない。これらを、1年間1日も欠かさずに行う。当屋制度で行われる祭事の中でも、日常生活を犠牲にするほどの厳しさを今日なお継続している例は全国でも稀である。加えれば、「諸手船神事」に用いられる二艘の古代船は古式にのっとり40年に一度新たに作られる定めだが、これも非常に珍しい。
この界隈の住民約250世帯は皆代々美保神社の氏子であり、彼らがこの祭事を300年以上にわたり連綿と口伝で継承してきた。青柴垣神事の祭礼当日である4月7日までにはおびただしい準備と手続きがある。寄付者に進呈する蝶型の扇は500以上を手作りし、数々の供え物やそれらを入れる籠などの細工作りには手順が定められている。地域住民は老若男女全員が何らかの役割につく。そしてこれら一切の段取りを、氏子組織が行政などの援助を受けることなく自主的に行っている。
子ども達は青年、壮年と年齢を重ねるにつれてより重要な役割を担い、祭礼の進行を身体で覚えてきた。またかつては、鶏肉鶏卵は一般家庭でも食べなかったという。こうしてこの土地では、大祭は日々の生活と切り離せない関係にあり、住民みんなで支えるという意識が根付いている。
古代日本の神話を守り続けることを使命と受けとめる小さな集落で、大祭はその日限りのものではなく、氏子達の暮らしの中に息づいている。