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サントリー地域文化賞

活動詳細

中部

富山県 立山町 2014年受賞

布橋灌頂会実行委員会
130年余り途絶えていた女人救済の儀式を現代的に復元

代表:佐伯 信春 氏

2014年9月更新

活動紹介動画(1:50)
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写真
布橋灌頂会

 白布が敷かれた朱塗りの橋を、白装束に編み笠、目隠しの女人衆がゆっくりと渡り、その向こうに立山連峰が神々しくそびえている。立山は、雪溶けしない山頂や、有毒ガスの噴出する「地獄谷」など、特異な景観が仏教と結びつき、畏れ多い霊山として古くから信仰の対象となり崇められてきた。その立山への登拝拠点である芦峅寺(あしくらじ)集落で女人救済のために行われていた行事が布橋灌頂会。女人禁制により入山を許されなかった女性達が、「この世(村)」にある閻魔堂から、「あの世(山)」にある姥堂(うばどう)まで、布橋を渡ることで擬死と再生を体験し、極楽往生を願うことを可能にした。立山信仰が栄えた江戸後期には毎年彼岸の中日に行われていたが、明治の廃仏毀釈により廃止され、以後130年以上途絶えていた。
 立山曼荼羅等の資料に記されているこの行事を復活させたいという声は以前からあったものの、費用の工面等に難があり実現しなかった。しかし1996年に県や町など多方面からの協力を得て1度限りの予定で復活させたところ、参加者や見物客からも好評で、立山信仰のひとつの象徴として今後も開催すべきだという待望論が起こった。
 145世帯の小さな集落にとって運営の労は決して軽いものではない。婦人会は、かつて立山登拝者に宿坊で出していた郷土料理の試食や販売のイベント「ごっつぉまつり」を実施し、その支度で大忙し。男性陣は、春になると料理に使う山菜採りに腕まくり。子供たちは伝統衣装に身を包み僧侶と共に参列する。他にも会場設営や女人衆の着付けなど、住民総がかりとなる。回を重ねるごとに、それぞれが自主的に役割を発展させ行事を盛り上げ、今では行事に向けての準備そのものが楽しみであり生き甲斐になっていると言う。
 これを支えてきたのは、地域住民の中に今も自然に息づいている立山信仰に他ならない。人間にとって恵みをもたらす楽園でもあり脅威を与える地獄でもある立山の大自然と共に生きてきた芦峅寺。行事を通して、立山信仰の根付く芦峅寺のことを少しでも多くの人に知ってほしい、足を運んでほしいという住民の熱意が実を結び、布橋灌頂会は3年に1度定期開催されることとなった。

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