活動詳細
滋賀県 長浜市 2013年受賞
江北図書館
100年余りにわたり、地域が守り続けた私立図書館
代表:冨田 光彦 氏
2013年9月更新
北陸と近畿を結ぶ北国街道と、名古屋、岐阜、江戸方面への近道として賑わった北国脇往還の分岐点があり、古くから宿場町として栄えた湖北の町、木之本町(現・長浜市木之本町)は、明治に入り郡制が敷かれると、伊香郡の中心地となり、紡績業でも大いに発展した。
木之本町に隣接する余呉村出身の弁護士、杉野文彌氏が、「杉野文庫」を開設したのは、1902年、明治35年のことである。杉野氏は、東京の図書館で勉学に励み、苦学して弁護士になった。自分がもし成功したら、郷里に図書館を建て、青少年に勉学の場を与えてあげたいという志を実現するためであった。
1907年には、杉野氏の寄付金1万円を基に、地元名士の協力を得て、財団法人江北図書館を設立。郡役所があり利用者も多い木之本町で、本格的な図書館を開館した。当時、日本全国でも図書館は126館(うち私立91館)しかなく、中でも無料で本を貸し出す江北図書館は、先駆的な存在であった。
図書館の蔵書は、農家の青年たちの勉強のために集められた農業書などの実用書のほか、水戸光圀編纂による『大日本史』や当時高価であった百科事典など多岐にわたる。1925年の郡制廃止により郡役場がなくなる際には、役所の貴重な書類を同図書館が一括して引き取った。ひとつの郡の行政資料がまるごと残っているのは全国でも極めて珍しく、貴重な一次資料として研究者に注目されている。
1993年まで公立の図書館がひとつもなかった伊香郡で、地域の図書館として住民に愛されてきた江北図書館だが、近年、図書館をめぐる環境は大きく変化した。近隣に大規模な公立図書館が設立され、インターネットを使えば簡単に書籍を購入することもできる時代になった。超低金利で財団の基本財産運用益は減り、しかも市町村合併により、これまで江北図書館を財政的にサポートしてきた旧伊香郡4町の関係団体からの支援も途絶えた。まさに逆境の時代である。
現在、私立図書館は全国でも20館程度しか残っていない。時代の荒波のなかで、多くの私立図書館が姿を消し、残っているものの多くが大企業や宗教団体を母体とする図書館である。個人の志で設立され、100年以上にわたって地域で守られてきたものは他に例がない。保存されている書籍、資料類も貴重なものであり、江北図書館の存在自体が地域の文化遺産といえる。時代の変遷とともに江北図書館の使命も変化した。今後は、地域の高齢者や子どもたちに読書の場を提供し、地域住民が集い、情報を発信する文化拠点として末永く愛され、守られていくことを期待している。