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サントリー地域文化賞

活動詳細

北海道

北海道 釧路市 2010年受賞

北海道くしろ蝦夷太鼓
アイヌ文化と和太鼓を融合させた新たな郷土芸能

代表:石田 榮一 氏

2010年8月更新

活動紹介動画(1分24秒)
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写真
2010年2月東京特別公演
(於:サントリーホール)

 北海道の東南部に位置する釧路は、暖流と寒流がぶつかり合う海と、広大な釧路湿原に挟まれた人口19万人の都市である。大自然に囲まれ独特の風土を持つこの街で、1967年、飲食店経営者7名が中心となり「北海道くしろ蝦夷太鼓保存会」が誕生した。

 歴史が浅く郷土芸能がほとんど存在しない北海道の地で、新しい郷土芸能を創り出し、地域の活性化にも役立てようと和太鼓の集団を立ち上げたのである。当初は練習場所や太鼓の確保にも苦労を重ねつつ、メンバーを募り、本州から指導者を招いて太鼓演奏の技術を学んだ。単に他の団体をまねるのではなく、釧路ならではの芸能となるべく、郷土の作曲家・飯田三郎氏に依頼してオリジナル曲を作ってもらった。蝦夷太鼓の太鼓演奏は、北海道の大自然の中に生きる人々の生活や祈りを一貫してテーマに取り入れている。代表作の一つ「サルルンカムイ」では、アイヌ民族の伝統的な楽器である口琴「ムックリ」とアイヌ古来のリズムを用い、釧路湿原に舞う鶴が悪の化身を追い払う様を表現している。ほかにも、釧路の街の様子や北の荒海、人々の祈りをテーマとする個性的な曲など、20曲以上のレパートリーを持つが、その中には、飯田氏による作品のほか、現代音楽家の水野修孝氏や細谷一郎氏の手によるものもあり、近代的な音楽構成を取り入れたオーケストラのような編成による演奏がひとつの特徴となっている。

 草創期から、地元はもとより全国各地で積極的な公演活動を行ってきた。結成間もない1967年に北海道博覧会に参加したのを始め、伊勢神宮奉納演奏(1968年)、大阪の日本万国博覧会(1970年)など様々なイベントに参加し、北海道ならではの太鼓演奏を披露し た。さらに1979年には、フランス・ニースで初の海外公演を行い、その後、オーストラリア、中国、ロシアなど、通算で15回の海外公演を行っている。その際には地域の人々との文化交流も行い、民間外交の一翼も担っている。また、東京の国立劇場へは2度出演し、札幌コンサートホール・キタラや東京のサントリーホールといったクラシックホールでの単独公演も実現した。

 後継者の育成にも積極的に取り組み、40年以上指導を続ける「釧路江南高校蝦夷太鼓部」は全国大会で上位入賞の常連校になるまでに成長した。そのほか小学校の支部や中高生を中心とした「蝦夷太鼓ジュニア」など、地域にいくつもの団体が誕生し、ここで育った人材が現在の蝦夷太鼓を支えている。蝦夷太鼓保存会は現在、市の消防署職員を中心とした約30名で構成し、支部を含めると100名以上の人々が蝦夷太鼓に打ち込んでいる。その中には聴覚障害者によるグループもあり、大人から子供、健常者と障害者、民間と行政を結ぶきずなを地域に築いてきた。蝦夷太鼓は北海道でもっとも古いアマチュア太鼓集団であり、その活躍に触発されて多くの太鼓団体が地域に生まれ、伝統芸能に取り組む人々も増えていった。

 和太鼓の新しい可能性を切り開く蝦夷太鼓は、北の大地の息吹を全国に伝え、経済の低迷によって疲弊する釧路の人々を元気づける応援団として、今後も活動を続けていくことだろう。

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