活動詳細
高知県 仁淀川町 2010年受賞
秋葉まつり
過疎地域を支える、開かれた伝統の祭り
代表:吉岡 郷継 氏
2010年8月更新
土佐三大祭のひとつであり、二百有余年の歴史を持つ「秋葉まつり」は、愛媛県と高知県の県境に位置する、小さな山里の祭りである。平家の落人伝説に由来をもつ秋葉神社の祭礼として、寒さの厳しい2月9日から11日までの3日間にわたって開催される。祭りのフィナーレは、祭神のご分霊が神社に還御する「練り」である。天狗の面をつけた「鼻高」を先払いに、長さ7メートルの大毛槍を投げあう「鳥毛ひねり」、子どもたちによる「太刀踊り」などを奉納しながら、200人にのぼる行列が約3キロの山道を1日がかりでゆっくりと練り歩く。近年は1万人近い観光客が訪れ、山里が俄かに活気づく。
この祭りが行われる高知県仁淀川町別枝地区は、標高1000メートルを超える四国山地の山中にあり、人口はわずか150人余り、高齢化率は74%で子どもは一人もいない。しかし、伝統の祭りを自分たちの代で絶やすまいと、祭りを担う「秋葉神社祭礼練り保存会」を中心に多くの人々が奮闘を続けている。仕事や学業の都合でまちを出て行った人たちも祭りの時期には必ず帰ってくる。定年後のUターン組も活躍している。
少子化の兆しが見え始めた昭和50年代には、地元だけでは支えきれないと判断し、祭りを外に開いていくことを決断した。神事の世界では、かなり勇気のいる英断といえよう。同じ旧仁淀村の中央地区の子どもたちに、太刀踊りへの参加を依頼。氏子ではない他地区の子どもたちが真剣を携えて舞い踊り、祭りで重要な役割を担っている。この子どもたちと保存会の人々は、練習期間と本番を通じて、本当の親戚以上に強い絆で結ばれる。小学校1年生から中学校3年生までの9年間秋葉まつりに参加した子どもたちの多くは、大人になってからも祭りに参加するために秋葉の里に帰ってくる。祭りの花形である「鳥毛ひねり」も、今はそうした若者たちによって担われている。
その後、過疎と高齢化の深刻さが増すに従い、祭りはさらに開かれていった。近年では消防団の青年たちが神輿を担ぎ、役場が中心となって駐車場の誘導など、観光客への対応を担当している。高知大学森林科学科のOBによるボランティアグループ「によど雑木団」が行列が通る山道の下枝を刈るなど、地元以外の人たちも加わって、多くの人々が祭りを支えている。2007年には、保存会から秋葉まつりを縁としてつながった人々に呼びかけ、「秋葉まつりの里を元気にする会 えんこ巌」を結成し、地域活性化に取り組んでいる。
祭りを絶やすまいと、伝統の枠組みを開いていった「秋葉神社祭礼練り保存会」の努力と決断、それに応えて祭りを手伝う人々との縁によって、秋葉まつりの里には人が集まり、人が帰ってくる。祭りを通じた新たなコミュニティも生まれている。「この祭りがなかったら、この地区はなくなっていたかもしれない」と保存会の吉岡会長が語るように、地域が祭りを支えているだけではなく、祭りが地域に活気を与え、祭りが限界集落を消滅の危機から守っているのである。