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サントリー地域文化賞

活動詳細

中部

静岡県 浜松市 2009年受賞

横尾歌舞伎
独自のしくみで後継者を育成し、農村歌舞伎を伝承

代表:高井 勇 氏

2009年9月更新

活動紹介動画(1分32秒)
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写真
若手が活躍する
「菅原伝授手習鑑 車引きの場」

 浜松市北部の横尾・白岩地区は、浜松の中心市街地から浜名湖の北に向かい、車で40分ほどの場所に位置し、地元で農業を営む人のほか、近隣の工場や企業で働く人たちが暮らす郊外住宅地である。明治時代から使われていた歌舞伎舞台「開明座」が、1998年に地域のコミュニティセンターとして建て替えられために、一見するとその町並みは、特別な歴史があることを感じさせない。しかし、この地区では江戸時代から200年以上もの間、地域の住民が手作りで行う農村歌舞伎「横尾歌舞伎」が代々受け継がれてきた。

 横尾歌舞伎の大きな特徴は、役者、太夫、三味線奏者はもちろん、振付や衣装の着付、床山まですべてを地域住民が担っていることである。台本、衣装、道具も他所から購入したりレンタルしたりするものはほとんどなく、江戸時代から保存してきたものや手作りしたものを使っている。美容院を営む人が鬘を作ったり、勘亭流の書体を書ける人がポスターをデザインしたり、住民がすべてボランティアで、様々な形で歌舞伎に関わっている。

 練習でも、プロの振付師や演出家に依頼するのではなく、経験者が指導するという形で、住民同士で教えあう。準備から片付けまで自分たちで力を合わせて行うことで、住民同士が交流できるということが、この歌舞伎に携わる醍醐味となっている。舞台にあがらなくても、道具を作ったり会場を整備したりするなど、皆で汗をかくことや、世代を越えた集いを楽しみに参加する人たちも多い。若い世代の参加も増えていて、昔は1日がかりだった会場設営が、最近では数時間のうちに終わってしまうという。

 住民の多くが協力する姿は、今でこそ当たり前のように見えるが、これまでには担い手不足による存続の危機もあり、後継者育成には特に力を注いでいる。1976年に、大人だけでなく子供も歌舞伎に参加できるよう「横尾歌舞伎文化財少年団」を結成。歌舞伎に欠かせない三味線奏者の育成を重視し、全国の歌舞伎団体の中でも珍しい三味線教室も開設した。また、2002年には「菅原伝授手習鑑車引きの場」という新演目に取り組んだ。新しく揃えた衣装や道具をより有効に使おうと、この演目を用いた、3年を一期とする新人育成の仕組みを考案。新人は1年目に端役、2年目に主役、3年目に後見として参加し、横尾歌舞伎を学ぶ。

 横尾歌舞伎では、伝統的な歌舞伎をただ継承するのではなく、歌舞伎を支える組織や仕組み作りを行ってきた。こうした努力によって、歌舞伎を続けていくための人材基盤ができ、毎年の舞台も活気付いている。10月の第二土・日曜日に行われる定期公演には、東海地方を中心に、関東や関西からも観客が訪れる。素人とはいうものの、地域で大切にしてきた衣装を着用し、歴史ある歌舞伎を演じる住民たちの演技は堂々としていて、舞台にはたくさんのおひねりが飛ぶ。横尾歌舞伎の伝統は、住民の知恵と工夫によって守り伝えられてきた。地域にあるものを、地域の人の手でより良くしようというその姿勢は、これからも受け継がれていくだろう。

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