活動詳細
大阪府 能勢町 2007年受賞
能勢 浄瑠璃の里
200人以上の太夫を擁し、町ぐるみで浄瑠璃の振興に取り組む
代表:中 和博 氏
2007年8月更新
大阪府の最北部に位置する能勢町。町民約13,000人のほぼ全員が、家族や親戚、またはご近所、同級生や先輩など、知り合いの誰かが何らかの形で浄瑠璃に関わっているといわれる全国でも珍しい特色を持った町である。
能勢町と浄瑠璃のつながりは、江戸中期の文化年間(1804〜17年)に始まった。ほぼ同時期に竹本文太夫派、竹本井筒太夫派、竹本中美太夫派の3派がこの地で誕生し、互いに励まし合い、競い合うことによって「語り」と「三味線」からなる能勢の素浄瑠璃の伝統を200年間継承してきた。2001年に新たに竹本東寿太夫派を加え、現在は4派で200名の太夫(語り手)を有している。
各派のトップは「おやじ」と呼ばれ、5〜6名の弟子を育成して3〜4年でその座を後継に譲るという、世襲制でない独自の「おやじ制度」と呼ばれる家元制を続けてきた。
新しい「おやじ」が誕生することにより、それまで浄瑠璃に縁のなかった「おやじ」の周りの人々を浄瑠璃の世界に誘い込み、浄瑠璃人口を拡大させてきたことも大きな特徴である。
能勢の浄瑠璃は1993年の「淨るりシアター」の開館をきっかけに新たな展開を見せる。従来の素浄瑠璃に加え、人形浄瑠璃にも取り組み、人形浄瑠璃文楽座の人間国宝の先生方などの協力を得ながら、町民が中心となって1998年に「ザ・能勢人形浄瑠璃」としてデビューした。
能勢の人形浄瑠璃の特徴は独創性が高いことである。演目も「仮名手本忠臣蔵」などの古典に加え、「能勢三番叟」や「名月乗桂木」などのオリジナル作品に取り組み、人形や衣装にもこだわり能勢独自のものを作成してきた。その後2006年に劇団として発展させた「能勢人形浄瑠璃鹿角座」が誕生し、現在数多くの公演を行っている。
後継者養成のために始めた「こども浄瑠璃」(素浄瑠璃)は1992年に「語り」、1995年からは「三味線」のワークショップが行われ、鹿角座の公演では子供たちだけの演目も演じられるなど、着実に成果につながっている。
一方で、浄瑠璃を新たなビジネスにつなげようとする試みが、数年の準備期間を経て2006年にスタートした。能勢には古くから伝統工芸である欄間や祭礼具製造の技術があり、その技術を活かして見台や三味線道具の修理や製造を行う「伝統文化の黒衣隊」が、能勢人形浄瑠璃有志と能勢町商工会青年部のメンバーが中心となって発足した。保存、修復に悩む全国の人形浄瑠璃や伝統芸能を応援するビジネスに、今後力を入れていきたいと意気込んでいる。
2006年3月、能勢町は「浄瑠璃の里文化を町と町民が協働して振興することにより、生活にゆとりと潤いをもたらし、町民が互いに尊重し合いながら生活するまちの実現を図るものとする。」を基本理念とした「浄瑠璃の里文化振興条例」を制定した。
浄瑠璃を中心とした地域文化の長年にわたる伝統継承に加え、様々な取り組みによって新たな発展を目指し、町ぐるみで活動を行っている能勢の浄瑠璃の今後に大いに期待したい。