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サントリー地域文化賞

活動詳細

九州・沖縄

熊本県 山都町 2001年受賞

清和文楽人形芝居保存会
清和文楽を復興・発展させ、全村挙げて「文楽の里づくり」を実現

代表:平田 節男 氏

2001年5月更新

活動紹介動画(02:00)
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写真
公演後の舞台挨拶

 2000年夏、江戸末以来150年の歴史を誇る熊本県清和村の文楽が初めて海を超えた。行き先はアイルランド。同県ゆかりの文学者ラフカデイオ・ハーン(小泉八雲)の生誕150年にあたり、熊本アイルランド協会ではハーンが少年期を過ごしたアイルランドでの記念事業を企画し、清和村が協賛したのである。演目はハーンの傑作「むじな」を文楽化した新作で、伝統外題に取り組んできた「清和文楽人形保存会」にとって、新作による初渡航は大きな挑戦であった。首都ダブリンを振り出しとする3度の公演は大盛況、大成功を収め、見事に日愛交流の掛け橋となり、保存会は歴史に新たな一頁を記した。

 清和村は周囲を森林に囲まれた人口3500の静かな山里である。清和文楽は熊本県に唯一残された人形芝居であり県の重要無形文化財に指定されている。村の人々が習い覚え、伝えてきたその芸は江戸末以来脈々と受け継がれ、春秋のお祭りでの奉納や、時には近隣の農村舞台を巡業し、観客の笑いと涙を誘ってきた。しかし時代の流れの中で、大正期に入って一時活動が中断され、存亡の危機をむかえた。が、昭和天皇即位を祝う大典での上演をきっかけに保存会が結成され、伝統芸を今日に継承してきたのである。92年には村特産の杉材をふんだんに使った文楽専用の「清和文楽館」を開設、清和村は今や「文楽の里」として広く親しまれ、年間の公演回数実に250回、修学旅行生を含め3万人もの観客を集め、村の元気の源となっている。

 一時期とは言え中断されていた文楽を復活させるのは容易ではなかったが、幸いなことに約50体の人形の頭と衣装が無事に保存されていた。初代天狗屋久吉の名品を含め、今日では作り手もほとんどいない貴重な細工ものである。加えて舞台経験豊かな先輩が健在で、保存会メンバーに昔取った杵柄、手取り足取りして人形遣いの技とコツを伝授する。義太夫と太棹三味線は鳴門の「淡路人形座」で本格的な修行を積み身に付ける。こうして一作、一作と持ち芸を増やし、今では10外題をこなすにいたっている。

 保存会のメンバーは女性6名を含む18名。平均年齢は62歳。その大半が農家であり、農作業のかたわら週一度の練習を積み、250公演をこなすのは並大抵のことではない。今回のアイルランド公演に際しては、新作「むじな」の習得に加えて、渡航時期が葉たばこやピーマンの収穫期と重なる、地元「清和文楽館」の公演に穴をあけるわけには行かないという苦渋の決断をせまられた。会議を重ね、最終的に6名が海を渡り、居残り組12名が文楽館の公演を守ることに合意した。渡航組の家族は仕事のやりくりをして練習と留守中の農作業をカバーした。

 清和文楽では、主役をつとめる主遣いも黒衣で演じる。これは舞台に立つ者も裏で支える者も、清和文楽を誇りとし、愛することにおいて上下なく、否、全員が主役であるという保存会の心意気を示しているのであろう。

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