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サントリー地域文化賞

活動詳細

北海道

北海道 札幌市 1999年受賞

加藤 博氏(個人)
人形劇専門劇場の運営等を通じ、札幌での人形劇の育成振興に尽力

1999年6月更新

写真
公民館におけるワークショップ

 お父さん、お母さんの隣にちょこんと座った子どもたちが、人形を操る「加藤のじじ」の呼びかけに元気に応える。休日の午後、札幌市こどもの劇場「やまびこ座」での風景だ。札幌には2つの公立の人形劇場「こぐま座」と「やまびこ座」があり、休みの日にはほとんど欠かさず、人形劇や児童劇が上演されている。1999年3月まで、この両館の館長を務めていたのが、「加藤のじじ」こと加藤博氏である。

 加藤氏が人形劇に出会ったのは1960年、28歳の時だった。照明の手伝いを頼まれ、軽い気持ちでアマチュア人形劇団「ひよっこ」に入団、完全に人形劇のとりこになってしまう。毎晩のように仲間と集まって、台本を練り、装置や人形を作り、年間数十回の公演を行う。その一方、札幌市内の人形劇団を集めて71年からコンクール形式の「札幌人形劇祭」を開催、73年からは「世界の人形劇を見る会」を結成し、海外の優れた人形劇を市民に紹介するなど、札幌の人形劇振興のための活動に取り組んだ。

 そうした中、当時の札幌市長の発案で、日本で初めての公立の人形劇専用劇場(こぐま座)が建設されるというニュースが飛び込んできた。その担当として、市職員である加藤氏が抜擢され、劇場の運営は氏が代表を務める札幌人形劇協議会に委託されることになった。1973年のことである。

 「こぐま座」は、座席数90の小さな劇場だが、札幌で人形劇をする人たちにとっては、市民からプレゼントされた自分たちの大切な城である。彼らは劇場の運営に積極的に協力、公演の前には劇場を掃除し、座布団も自分たちで敷いた。そして加藤氏は、こうしたアマチュアの人形劇団にとって使いやすいことを第一義に考え、使用料をぎりぎりに抑え、いつでも、何時まででも劇場を使えるように骨を折った。これは、公立の施設としては大変なことであり、氏は休日も返上し、毎日夜遅くまで劇場に残った。

 劇場責任者としてのもうひとつの課題は「人形劇場」の名に恥じない公演日数を確保することである。オープン当時、札幌市内の人形劇団数は20に満たず、かといって東京からプロ劇団を呼ぶには費用がかかりすぎる。そこで加藤氏が講師となり、人形や装置、台本の作り方から上演の仕方まで教える「人形劇教室」を年2回開催。74年から今日まで継続されているこの教室からは、ママさんサークルを中心に、多くの劇団が誕生している。

 こうした努力のおかげで、「こぐま座」ではオープン以来毎年200公演以上の人形劇が上演されている。休みの日には、子どもたちの元気な声が響きわたり、中には親子二代で劇場に通ってくる観客もいる。88年には、第2の劇場「やまびこ座」も誕生。座席数300、人形や舞台セットを製作するための美術工作室や、講習会・リハーサル用の研修室、図書コーナーも備え、北海道全体の人形劇の情報センターにもなっている。

 25年間勤めた「こぐま座」「やまびこ座」の館長を退いた後は、自由な時間をいかしてより多くの後輩を育て、励まし、人形劇振興のために働きたいという加藤氏。人形劇人生の新たなる幕開けである。

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