活動詳細
徳島県 徳島市 1998年受賞
犬飼農村舞台保存会
明治6年築の農村舞台の保存と襖カラクリ技術の継承・実演に尽力
代表:伊丹 功 氏
1999年11月更新
毎年、11月3日の文化の日、日頃静かな五王神社の境内はおおいににぎわう。この日は、朝から弁当持参でかけつける近郷の人々を始め、北海道から九州まで千名をこす各地からの見物客が、農村舞台で演じられる「阿波の人形芝居」と「襖カラクリ」を楽しみ、惜しみない拍手をおくる。
江戸末期から明治にかけて徳島では地域の信仰行事や娯楽として、人形浄瑠璃が県内各地の農村舞台で上演され、最盛期には300近い舞台があった。犬飼の農村舞台もその一つである。しかし時代と共にさまざまな事情で姿を消していき、今やしっかりと舞台が保存され、襖カラクリの技術が伝承されているのは、県内では犬飼と坂州(那賀郡木沢村)のみである。
この犬飼の農村舞台と、襖カラクリの技術も一時は存亡の危機にあった。他の娯楽に押され、過疎化による人手不足、高齢化もあいまって、1959年以降、公演は中止されていた。舞台の老朽化も進み、廃棄処分が真剣に議論されたこともあった。そうした状況下で、地元住民から、代々受け継いできた神事の舞台とカラクリの技術を絶やすべきではないとの声があがり、保存運動が開始された。「今でこそ注目を集めるようになったが、当時は容易な事ではなかった」と保存会のメンバーは振り返る。みかん栽培のあいまに、痛んだ舞台や、襖カラクリの仕掛けを修復、76年10月復活公演にこぎつけた。「観客は僅か50名程度でしたが、公演できたことが何より嬉しかった」と伊丹会長は当時を語っている。
その後も苦難の道が続く。まず資金面である。公的援助や支援団体の助けを借りながらも、会員の自己負担は軽くなかった。加えて、人手不足はより深刻である。人形芝居は名門勝浦座によって上演されるが、同舞台の呼び物である「襖カラクリ」は住民自らが演じるものである。古老の掛け声と共に8名の男子が132枚の襖絵を操って、牡丹、松竹梅、唐獅子、千畳敷等次々変化させながら42景を演出する。技術の習得に年季が必要で、大変な肉体作業である。会員の年齢が80歳をこえ、年々傾いてくる舞台を公演のたびにジャッキで持ち上げるという状況で、懸命に伝統を維持してきた。
そうした会員のねばり強い努力がみのり、ようやくここ数年、犬飼農村舞台は高く評価されるようになり、地元に若手後継者が育ちつつある。1998年春、同保存会が中心となり、徳島市の援助を受けて1873(明治6)年以来の農村舞台の大改修を完了した。5月5日、改装なった舞台で神戸・鳴門ルート全通記念行事として、賑々しく人形芝居と襖カラクリが上演され、多くの観客に感動を与えた。同年12月には国指定重要有形民俗文化財に指定された。