活動詳細
島根県 松江市 1997年受賞
劇団「あしぶえ」
地域での永年の公演実績をもとに、活動の拠点となる村営劇場を完成させた
代表:園山 土筆 氏
1999年11月更新
宍道湖に落ちる夕陽がとても美しく、水郷情緒あふれる観光都市、松江市。その松江市で、1966年、高校時代の演劇仲間5人が集まり「松江演劇同好グループ」が結成された。彼らはまず演劇史や古典劇の勉強から活動をスタートし、翌年には宍道湖に自生する葦をイメージして劇団「葦笛」と改称、以来30年余、島根県を中心とした演劇活動を続けるなかで、さまざまな苦難を乗り越えてきた。
創設時の仲間が結婚等の理由で次々に劇団を離れ、4年目に創設メンバーはリーダーの園山氏だけとなる。その園山氏も結婚、ご主人の転勤で松江から離れざるを得なくなった。それでも劇団を潰すまいという信念から、週末にはバスで片道6時間をかけて広島から松江まで通う。その後も宇部、倉敷などを転々とし24年間通い続けた。創設16年目には劇団結成以来の危機が訪れた。メンバーの激減で解散直前まで追い込まれたのである。
これを転機にサークル劇団からの脱皮を図るため、劇団「あしぶえ」と改称し、美術・照明をプロから学ぶとともに、小劇場での観客と一体となった演劇づくりを心掛けるようになった。「1000人のホールで一回公演するよりも、100人のホールで10回の方がよい。観客も舞台を間近に見られるし、役者も回数をこなすことで演技が熟してくる」というのが園山さんの哲学である。86年には松江市内の12坪の劇団事務所を改造し、夢であった自前の劇場「あしぶえ50人劇場」を完成させ、そこを拠点に活発な公演活動を開始した。
90年には「セロ弾きのゴーシュ」の年間46回ロングラン公演を行ったが、これは日本のアマチュア劇団史上初の快挙と言われている。演劇の質も向上し、92年には「第2回アメリカ国際演劇祭」で世界11ヵ国のアマチュア劇団の中から第1席に選ばれ、同時に演出賞、舞台美術賞を受賞するという栄誉に輝いた。
92年松江市の南に隣接する八雲村で「文化による村おこし」を考えていた村長との出会いがあり、95年村営の劇場「しいの実シアター」が完成した。「あしぶえ」のプランにもとづき、客席は村木「しいの木」を使ったベンチシート108席、客席ではお茶のサービスもあり、木の香りのするあたたかい劇場となった。
オープン記念には西日本の5劇団が上演する「星降る里の演劇フェスティバル」が開催され、全国から36の劇団がお祝いに訪れた。地元の人も宍道湖名物しじみ汁の炊き出しなど積極的に参加。以後公演時にはアーツ・スタッフとして受付やグッズ販売などのサービスにあたるようになった。園山氏ら2家族も劇場の隣に移り住み、ますます地元との連携は深まっている。
98年カナダで開催された「第4回リバプール国際演劇祭」に参加し、世界13劇団の中から「セロ弾きのゴーシュ」が「観客が選ぶ作品賞」と「主演男優賞」を獲得した。99年11月には「八雲国際演劇祭」を開催する。これは八雲村行政と地域の人々、そして劇団「あしぶえ」が一つとなって、関わるすべての人が学び楽しむ演劇祭をめざしており、国内外からの劇団員、審査員は、すべて40軒の家庭にホームステイする。2001年から、2年に1度定期的に開催していく予定である。
近年全国で多くのホールが誕生したが、立派な建物ができても公演がともなわないケースの多いなかで、この「あしぶえ」の活動は劇団活動を基盤としたホールづくりの新しいモデルとなるであろう。