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サントリー地域文化賞

活動詳細

中部

新潟県 阿賀町 1995年受賞

津川 狐の嫁入り行列実行委員会
狐のメイクをした人々が練り歩く幻想的なイベントを町を挙げて展開

代表:澤野 修 氏

1999年11月更新

写真
狐メイクの花嫁が街道をねり歩く

 新潟県津川町は、新潟市から東へ約50キロ、福島県と接する山間の地である。町の中央を阿賀野川と常浪川が流れ、その合流地点に屹立する嶮岨な岩山「麒麟山」は、奇山として知られ、町のシンボルになっている。

 昔、この麒麟山には狐が棲み、毎晩のようにその鳴き声が聞こえた。狐火も見られ、数多くの狐にまつわる言い伝えや、稲荷信仰が今に残る。津川では、婚礼は夜に行われ、提灯を下げて嫁入り行列を行っていたことから麒麟山の狐火は「狐の嫁入り行列」と呼ばれ、これが多く見られる年は豊作になるため、縁起がいいと語り継がれてきた。

 毎年5月3日、麒麟山山頂の金上稲荷神社の祭礼に合わせて行われる「狐の嫁入り行列」は、こうした伝説と地元の婚礼の習慣に基づく。昭和20年代後半にも、遊び心から、地元の青年たちによる行列が細々と行われていた。1990年、経済の沈滞と過疎化が進む中で、「心まで過疎になるまい」と考えた若手商店主らが、この行列を現代風にアレンジして復活させた。町と人々の心の活性化を願って取り組んだ起死回生の策といえる。

 夕闇の迫る午後5時、白無垢姿の花嫁を中心に、「狐の嫁入り行列」が木遣り歌に送られて出発する。古い時代の装束をまとい、入念な狐のメイクを施した総勢100人余りの行列が、街の中心部の街道をゆっくりと進む。かわいらしい子狐たちの祝いの踊り、花婿と花嫁の対面、河原に設けた特設会場での古式ゆかしい結婚式と披露宴などの見せ場が続く。そしてフィナーレ。すっかり闇に包まれた河原に篝火が燃え盛り、松明を手に山から下りてきた狐たちが対岸で待ち受ける中、花嫁花婿を乗せた渡し船が川を渡る。松明の一行とともに両人が対岸の麒麟山に消えて行くと、山に狐火が灯り、「ケーン」「ケーン」という狐の声が周囲に木霊する。

 「津川狐の嫁入り行列」は、街道と山と川の自然を舞台とした、美しく幻想的なページェントである。主役の花嫁花婿は、その年に結婚するカップルを町内外から募集し、その中から選ばれるが、それ以外の行列参加者は全て町民。商工会青年部を中心に、役場の職員や町内会、婦人部の代表が実行委員会を結成し、企画運営を行うほか、会場作りや場内整備、炊き出し、メイク係など、500人近い町民ボランティアが協力。行列の当日は、メイク体験コーナーが設置され、子どもたちや一般の住民、観光客、さらには見物人の整理を手伝うJR職員やお巡りさんまでが狐に変身し、雰囲気を盛り上げる。

 手作りの味と幻想的な美しさが評判になり、「狐の嫁入り行列」は今や4万人をこえる観光客を集めるようになった。これにともない、行列の背景として重要な役割を果たす街道や家並み、自然を美しく保つための様々な活動が始まり、「町民参加による美しく潤いのある景観づくり条例」制定への取り組みも進められている。また、96年には「狐の嫁入り屋敷」を中核とする観光交流拠点「阿賀物語村」を開村。「国際火の玉シンポジウム」の開催やホームステイによる民間国際交流の拠点ともなっている。「狐の嫁入り」をモチーフにした商品もいくつか生み出されており、「狐の嫁入り行列」は、官民挙げての町づくりの核となっている。

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