活動詳細
富山県 高岡市 1994年受賞
越中野外音楽劇団
市民千人が参加し、高岡城跡を舞台に音楽と舞踊による野外劇を上演
代表:佐竹 清 氏
1999年11月更新
静寂の暗闇の中、突如ライトに明りが灯ると、高岡城跡の古城公園は、どよめきに包まれる。舞台いっぱいに散らばった出演者たちが、静止したまま後方からのライトに照らされると、そこには大きな影絵が現れる。その情景はあまりにも幻想的であり壮大だ。約7千平方メートルの古城公園本丸広場を舞台に繰り広げられる野外音楽劇「越中万葉夢幻譚」は視野に納まりきらない。
公演の展開を見てみよう。万葉のいにしえ、万葉集の編者とされる若き越中国守大伴家持が、遊行女婦の土師を伴って布施の水海に舟遊びに出かけた。桃の花も咲き乱れる早春の昼下がり、家持は都の政治のことが頭から離れず気が晴れない。藤原一族の日の出のごとき勢力に比べ、大伴家の行く末が心配でならない。悩む家持を見て、二上山の詩神が土師を道案内に未来へと導く。いつしか家持は土師のひざを枕に、夢の中でタイムトリップをはじめる。
時は源平合戦時、平維盛が十万の大軍を率いて越前・加賀を平定、越中に向かうが、般若野(現在の高岡市)で木曽義仲の先遣隊今井四郎兼平に破れ、倶利加羅山に退き陣を敷く。舞台では蹄の音と共に、怒涛のごとく武者が疾駆する。広い舞台を縦横に馬が駆け巡る様は、野外ならではの大迫力だ。家持がレーザー光線の中から時空をこえて登場するシーンはことに圧巻である。
江戸時代の庶民文化の隆盛、明治維新後の近代化、明治の大火、第二次世界大戦、そして現代へと続く舞台の展開に、約3400人の観客は、二上山の詩神に導かれる家持と共に、高岡の歴史を旅することになる。その間、霧がたちこめ、松明の火、花火、華やかな照明とレーザー光線、そして公園いっぱいに鳴り響く音響が、観る者を幻想の世界へと誘う。ハイテクを駆使した演出は、野外音楽劇だけに許される壮大なシーンを次々につくり出していく。
野外音楽劇「越中万葉夢幻譚」は、1989年に高岡市市制100周年を記念して実施され、以来毎年行われている。参加者は全て一般公募による市民で、キャスト約1100人、スタッフ約200人が参加し、越中野外音楽劇団を構成している。また劇中で再現される、能、舞踊、バレエなどは、さまざまな市民団体が日頃の活動を披露し、舞台を盛り上げている。文字どおり市民挙げての野外音楽劇であるが、総監督はフランスやギリシアの野外音楽劇に造詣の深い藤本壽一氏を招聘、音響・照明などは世界最先端技術を駆使、ナレーションは俳優の平幹二朗氏が担うなど、主要な部分には積極的に中央の人材を起用し、この作品を格調高い作品として仕上げている。市民、行政、中央が一体となった野外音楽劇活動は地域の文化創造の新しいジャンルを切り拓くものである。