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サントリー地域文化賞

活動詳細

東北

福島県 いわき市 1991年受賞

いわき地域学會
地域の調査研究と出版を通じた総合的・学際的なコミュニティ活動

代表:馬目 順一 氏

1999年11月更新

活動紹介動画(02:00)
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写真
勿来方面に地域巡検

 「いわき地域学會」発行書籍の巻頭には、「われわれがなすべきことの一つは、地域文化の仕組みを解き明かし、現在の地域社会の理解と未来考察に有効な情報を供することだと信じる。……われわれが現に生活している『いわき』という郷土を愛する。しかし偏愛のあまり眼を曇らせてはならない。」と、活動の主旨が掲げられている。

 1984年9月、いわき市在住の十数名の研究者が集い、戦前のドイツに起こった「郷土学」に相当する「いわき地域学」の会として発足した同会は、21世紀を目前に控え、変貌するいわきの姿を総合的に調査、研究し、可能な限り正確なデータを次代に伝えることを目指している。ここでは、考古学、地理学、文学、歴史、民俗学、植物学など異なるジャンルの研究メンバーの交流による学際的な研究が行われ、郷土史研究にありがちな、独り善がりの歴史観が回避されているのが大きな特徴である。

 1988年には、設立以来の成果をもとに総合調査報告を刊行。原稿執筆、編集作業を会員自らが手掛けた461頁にのぼる報告書は、いわきの学際的なアプローチによる昭和の風土記とも言え、さらに次の刊行を目指して他の地区の調査・研究を継続している。出版活動は盛んで、会員の研究発表の場である機関誌「潮流」や、会員個人の研究成果をまとめた書籍を多数出版しているほか、総合雑誌「うえいぶ」を発行。地域の諸問題をテーマにした特集では、賛否両論、広く意見を取り入れた討論の場とし、エッセイ、経済や社会問題の評論など市民の投稿も掲載。雑誌を通じて市民との交流を図っている。

 このほか、同会主催による毎月の市民講座や、地元市民参加による年2回の調査「地域巡検」などの啓蒙活動を行っている。また、21世紀までに101回のふるさとコンサートの開催、地元音楽家の育成、絵画展などの文化活動、さらに市内で散逸の危機に直面する歴史史料、蔵書の保護のための総合博物館、図書館の建設を提言するなど、会の活動は幅広い。

 今日、地域おこしが全国で進められており、地域の歴史、地理、民俗などの正確な基本史料の必要性が高まり、地域のコミュニティ活動も趣味的段階を脱却したものが求められる時代を迎えている。そうした中で「いわき地域学會」は、閉鎖的な研究に留まらず、学際的な研究と出版・文化活動による地域住民との交流を合わせ持ち、過去、現在、未来を視野におさめた新しいコミュニティ活動として注目されている。

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