活動詳細
千葉県 千葉市 1988年受賞
佐治 薫子氏(個人)
管弦楽指導を通じ、地域の音楽文化の向上に貢献
1999年11月更新
1956年、佐治薫子氏は、クラシック音楽とはまだ縁のうすい農村にあった千葉県松丘中学校に赴任。楽器一つもない中からハーモニカを中心としたリード合奏団を編成。早朝あるいは夜遅くまで自ら楽器の修理、楽譜づくりをするなどの熱心な指導は、父兄たちの心を動かし、藁を売って楽器を揃える「わら一束運動」などの支援活動が生まれた。こうした環境のもと、同校のリード合奏団は設立後1年で「TBSこども音楽コンクール」で優秀賞を受賞するというめざましい成果を上げた。子どもたちのかもし出すハーモニーのすばらしさは、その曲目から“山の中のバッハ”、そして佐治氏は“バッハ先生”と多くの人々に親しみをもって呼ばれた。
以来、多年にわたり赴任先の小・中学校の生徒たちに、完成度の高い音楽を創ることの楽しさ、喜びを教え続けている。同氏の指導を受けた子どもたちは、卒業後も演奏を続けたいと、1974年にアマチュア・オーケストラ「ウインドミル」を結成。メンバーも充実し、県下で定期演奏会をもつなど積極的な活動を続けている。また、同氏が音楽監督を務めるこのオーケストラに参加する教え子たちは年々増え、「ジュニア・オーケストラ」も編成されている。
今は演奏活動に熱心な人々も、佐治氏の指導を受け始めた頃は、全員が一様に楽器の経験のない子どもたち。その子どもたちに最高のレベルの音楽を目指させるための妥協のない厳しい指導。それは目指す頂点が高い程最大の能力が引き出せ、底辺も広がっていくという氏の信念の現われである。“バッハ先生”が指導する各校の管弦楽部が全国学校合奏コンクールなどで数々の栄誉に輝いていることは、その方針の正しさを如実に物語っている。
1987年、千葉県習志野文化ホールで、小学生からその親ほどの年齢までの演奏家たちが、佐治薫子氏の教職30周年を祝う合同の演奏会を開いた。参加者は約1500名。30年前に佐治氏に手ほどきを受けた大人たちから、今スタートを切ったばかりの子どもたちまで一堂に会しての演奏会は、同氏が器楽演奏を通じて教育に取り組み、音楽を通して地域の文化振興に努めたことの集大成でもあった。
一方、1986年にメルボルン少年少女弦楽合奏団が来日し、市川市立鬼高小学校において日豪親善演奏会が持たれた。その折の子どもたちのふれあいがきっかけとなって、親子のホームステイが行われ、その後親同士の文通も始まるなど、世代をこえ、地域、国境をこえて、佐冶氏を中心とした音楽文化の交流の輪はますます広がっている。
1996年に退官、40年にわたる教員生活に終止符を打ったが、同年結成された千葉県少年少女オーケストラ音楽監督に就任するなど、子どもたちの音楽教育にかける佐治氏のエネルギーは衰えを知らない。