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サントリー地域文化賞

活動詳細

北海道

北海道 函館市 1985年受賞

南茅部沿岸漁業大学
新時代の漁業に生きる町としての地域住民のための独創的な生涯教育

代表:飯田 満 氏

1999年11月更新

写真
海上での実習

 北海道の南部、渡島半島の東側の町南茅部町は、古く江戸時代から昆布の最高級品 「白口浜真昆布」の産地として知られ、日本一の真昆布の生産地である。しかし、この町でも、他の町と同様、若者の多くは都会に行ってしまい、漁師の数も徐々に減少していっているのが現状である。そんな中で、新しい漁業のあり方を模索して、養殖産業・水産加工品の開発を中心に、町を挙げて「考える漁業」「育てる漁業」への大きな一歩を踏み出している。

 そのシンボルとも言うべき存在が、「浜のカレッジ」沿岸漁業大学(沿大)である。佐藤前町長の提唱により、町と教育委員会、町内6つの漁業協同組合が官・民協力し、生涯教育の場として1978年に設立。学長、副学長を置き、生徒には学生証や終了証書も発行する。当初は、多忙な漁民を対象とした教室に果たして人が集まるのか、いつまで続くかと大いに危惧された。しかし、案ずるより生むが易し。「昆布の間引き作業を早めに済ませてきたよ」「腹が減ったが、晩めしは講義が終わってからにする」等々、勉強嫌いと思われた海の男たちの熱心な勉強ぶりは、「沿大」側の懸念を雲散霧消させた。

 講座の内容は、漁業技術、小型船舶操縦、レーダーの資格取得といった実践的講座や、「養殖昆布の生育状況」「近海環境の変化」「漁業気象」といった漁業に関する専門知識課程ばかりでなく、女性向けの「地場産品をつかった料理」「健康講座」、さらには高齢者を対象とした「人生を楽しく」など多岐にわたる。また講座以外にも、「ウニの養殖研究」「特産品加工研究」「特別講演」等の活動も行っている。

 開校以来20年間で761回の講座を開き、受講者はすでに延べにして2万9千人をこえた。1983年の創立5周年記念シンポジウム、85年の北海道知事と「沿大受講者」との対話、ミーティング等を通じて、「沿大」の存在は広く道内外に知られるようになった。また、米国アラスカ州立大学や発展途上国との交流を通じて、国際交流活動も行われた。

 今や、「沿大」は単なる生涯教育の場としての機能だけでなく、その研究成果を通じて、効率的で付加価値の高い漁業を促進したり、町の人々の情報交流センターの役割をも果たしている。

 南茅部町の人々の熱い期待と信頼を集めている沿岸漁業大学の活動は、従来の価値観にとらわれない、新しい時代の漁業に生きる町のパイオニアとして、他の地域にとっても多くの示唆を含んでいるだろう。

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