活動詳細
岩手県 遠野市 1983年受賞
市民の舞台 遠野物語ファンタジー(受賞時は「遠野市民の舞台」)
遠野物語を題材に市民挙げて手作りの舞台を創造。全国の市民劇場の先駆け的存在
代表:登坂 慶子 氏
1999年11月更新
寒い大ホールでの立ち稽古。夜な夜な金槌をふっての舞台装置づくり。大道具、小道具の色づけ。みんなで舞台をささえるキャスト、スタッフ。「遠野市民の舞台」は市民を挙げてのコミュニティ活動としてほとんど1年がかりで創り上げられて行く。
全国でも珍しい社会教育の総合的なコミュニティ施設として、「市民センター」が人口3万人余の遠野市に完成したのが1974年である。折角のこの施設を市民文化運動の中心として活用するためにと、「遠野市民の舞台」が企画された。
民俗学発祥の古典ともされる『遠野物語』に集められた民話を現在の市民のものにしようとして、現遠野市に統合された1町7ヵ村のそれぞれに伝わる民話のいくつかを題材にして、毎年1ヵ村ごとにオリジナルな脚本を作り、これを舞台に仕上げて行く。1983年からは、より広い市民文化活動の中核として、市民と行政が一体化した「遠野物語ファンタジー制作委員会」を母体に上演が続けられている。
毎年、春早々から運営スタッフ会議を設け、明年春の公演にむけて、創作演出部門を始め、スタッフ、キャストの代表を集め、具体的な企画が練られる。これらのスタッフ、キャストもすべてアマチュアで構成され、一般市民が各役割を分担し、総勢3百〜4百人に及ぶ。そして翌年の2月、3回の公演で3千余名の市民がその感動を共にする。
大工さんも、銀行員も、教師も、また農家の人々も、そして高校生・小中学生を含む老若男女各層の人々がこの「遠野市民の舞台」の創造を通じて、一つのコミュニティを形成し、郷土愛をはぐくみ、これが核となって多方面に活動の輪が広がって行く。この舞台創作を機に、廃絶しそうになっていた古い民俗芸能が復活され、また新しい芸術活動としてバレエスクールなどが開設された。そしてその輪は遠野市にとどまらず県内の各都市に市民劇場活動として波及して行き、岩手県の地域文化の活性化に大きな刺激を与えている。
しかもこの「遠野市民の舞台」は市民みんなが参加する活動である点に最大の特徴があり、名実ともに市民による市民のための舞台である。これは文化活動を核に、多くの市民が自主性と創造性を発揮して参加する新しいコミュニティ活動のあり方を示すものであろう。