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サントリー地域文化賞

活動詳細

東北

青森県 弘前市 1983年受賞

高橋 彰一氏(個人)
「津軽書房」を設立、地方の特色をいかした出版活動を展開

1999年11月更新

写真
書店をまわる高橋氏

 本州の最北端に位置する青森県は、気候の上から、また歴史の流れの中から大きく東部と西部に二分される。太平洋に面した東部の人々が温厚で、政治・経済面に進出しているのと対照的に、西部の津軽地方は反骨精神に富み、非妥協的で、太宰治、葛西善蔵をはじめ多くの作家や詩人を輩出している。

 高橋彰一氏はこの津軽にあって、1964年「津軽書房」を設立し、以来34年間に480点余の出版物を刊行した。高橋氏の経歴は文学を志した青年がその情熱を絶やすことなく燃やし続け、中央と地方の間を揺れ動きながら模索し続けてきた軌跡であったと言える。

 2度にわたる東京での作家修業を断念した高橋氏は、弘前で古本屋を営むが、東京で出版社に勤めていた経験をいかし、地方での出版を試みる。「出版社という事業形態は東京でこそ成り立つのであって、それを地方の小都市で少しでも存続させようとするのは、いかにも無謀なこと」と後年述懐しているように、少ない作家陣、限られた読者層、宣伝や印刷技術、デザイン面でのハンディや流通の不備等、極めて困難な状況であった。その中で、他に見習うべき手本もなく、本を風呂敷に包んで一軒一軒と本屋をまわって置いて行くという手探りの状態で津軽書房は運営されたのである。

 津軽書房は、高橋氏の長年にわたり蓄積され、磨き抜かれた「文学の眼」によって、独自の出版物を続々と発行していった。初めての出版『津軽の詩』では、方言による詩集という新しい試みを行い、『ふるさとの歴史』『ふるさとの民話』『津軽艶笑譚』等では地方の特色をいかした。また大手出版社も手のつけていなかった葛西善蔵全集を刊行した。さらには、地元作家の発掘にも炯眼を発揮、高橋氏の勧めで出版された長部日出雄氏の第一創作集『津軽世去れ節』は直木賞を受賞し、長部氏を世に送り出すこととなる。

 津軽書房のこうした活動による地域の文化への貢献は測り知れないものがあるが、氏はまた東北各県で活躍する出版人の集まりである東北出版人懇談会の会長となり、1980年「東北の本フェア」を全国的な規模で開催、地方出版物の紹介、普及運動の中心人物としても活躍した。

 「失われつつある地方の伝統、文化を現代社会の中に再生していくのが出版の使命であり、そのために地方でこそ“心”の投資が必要である」を信条としていた高橋氏は、“一代限り”の出版業に精魂を傾け、全国の地方出版社の先駆けとして、茨の道を切り開いていったのである。

 高橋彰一氏は、1999年1月ご逝去された。津軽書房は、現在、伊藤裕美子氏が活動を引き継ぎ、在庫販売を中心に活動が続けられている。

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