SUNTORY CHALLENGED SPORTS PROJECT
谷真海の「チャレンジ、再び」第6回「パラ競技の浸透を実感した24年夏と、これから」
残暑もすっかり落ち着いてきましたが、今回は夏のパリ大会について書こうと思います。
日本で感じた今回のパラリンピックは、アスリートたちの躍動はもちろん、テレビ画面越しにも伝わってくるパリの熱狂が印象的でした。私が出場した2012年ロンドン大会の連日満席に近い盛り上がりにも心から感動しましたが、今回、現地から届く選手や関係者の声からは、それをも超える大歓声で、選手たちの背中を押してくれた印象を受けました。そんな話を聞く度、東京大会の「無観客」が改めて残念に思うのは私だけでしょうか。オリンピックと同様に、パラリンピックは、観客がスポーツとして観戦し、声援を送り、選手も観客も心が震え、街、そして国が盛り上がる。そのことで社会の多様性への変化に多少なりとも影響を与えることができます。ロンドンも、今回のパリもパラスポーツを含めたスポーツが文化として根付き、成熟しているなと感じました。日本がきちんとパラムーブメントへのバトンを渡したことを誇らしく感じると共に、日本の機会損失をそのままで終わらせてはいけない、とも感じます。
13年9月の東京大会招致の決定が、日本におけるパラの認知度向上の転換点だと考えています。実際、東京大会に出場した日本代表の選手たちには多くの大企業が所属先としてサポートしました。企業広告などのメディア露出の機会も増え、パラスポーツへの理解と支援がじわじわと浸透し、多様性への理解の促進にも前向きな雰囲気が醸成されているように感じます。パリ大会に向けても、この動きは前進をしているように思います。実際、日本経済新聞の記事では、企業が伴走するガイドランナーも一緒に雇用するほか、国外への移籍時に海外人事を発令して支える動きが紹介されるなど、多様で柔軟な働き方でアスリートを支える環境が広がっているということも心強く感じました。
次世代パラアスリートを奨励金でサポートする「サントリー チャレンジド・スポーツ」においても、これまでにサポートしてきたアスリート11人が、パリの舞台を経験しました。プロジェクトの地道な活動が一助になったことは大変喜ばしく思っています。
一方で、現状に満足かと言えば、決してそうとは言い切れません。まだまだ盛り上げる余地はあると思っています。
五輪期間中は誤審問題などのネガティブな話題も含めてですが、やはり注目度は高かったように思います。では、パラリンピックはどうだったでしょうか。例えばテレビの放送時間は、時差の関係で競技時間帯が日本の深夜帯になったことも一因だとは思いますが、リオ大会、東京大会と比べてかなり減少しました。東京大会が無観客ではなく、十分にレガシーを残せていれば、「パラリンピックをもっと放送して」という声が大きくなったかもしれません。これが、無観客だったことによる機会損失です。パラアスリートとして、私自身もどうすればいいかという課題と向き合っていく機会になったと思っています。
私自身の挑戦についても触れます。パリ大会のパラトライアスロンの選考会を兼ねた国際大会には、6月の最後までチャレンジを続けました。パラリンピック出場をものすごく意識したわけではありませんでしたが、「可能性が残っているのならば、最後までベストを尽そう」と限界へ挑みました。5大会目となるパラ出場にはわずか届きませんでしたが、短期間できることはやりきったという達成感と充実感を抱くことができています。
今回はプロセスの中で得た収穫がたくさんありました。一番は、2人目を出産し、年齢を重ねてもなお、まだ戦えるという感覚を得られたことです。さらに、環境面にも変化がみてとれました。3年前の東京大会では当初、私が出場するクラスの実施が見送られることになり、必死になって、国際パラリンピック委員会や国際競技連盟に見直しを訴えて実現にこぎつけました。
今回は、全ての障がいクラスの選手に出場の可能性が最初からあることで、選考会にエントリーする選手数が増え、レベルも格段に上がりました。選手同士が切磋琢磨してレベルが高くなり、私も同年代や年上のアスリートの頑張りにもたくさんの刺激をもらいました。
夢を追うことは決して楽なことではありません。壁を痛感させられ、苦しさから逃げたくなる時もあります。一方で、そこを諦めない気持ちで、限界の先へと乗り越えていくことで、自分自身の成長へつなげることができます。それは、とても大きなやりがいです。だから、私はこの先も挑戦を続けていくつもりです。パラリンピックという人生におけるかけがえのない宝物が、いつも私の背中を押してくれます。現在もトレーニングを継続し、冬には強化の一環で10キロのマラソン大会にもいくつかエントリーする予定です。
「多様性」や「共生社会」について、言葉で訴えることも大切かもしれませんが、私の場合は、自分自身が市民ランナーと一緒に走ったり、スポーツを楽しんだりすることで、障害があってもなくても、チャレンジすることは当たり前の世界が広がっていくことを願い、体現していくことができる立場にあります。年齢や性別に関係なく、みんなが集う。その場に義足のランナーがいても、不思議ではないはずです。スポーツの現場から少しずつでも変化を起こし、私自身も変化を感じ、次の変化へとつなげていく。そんな日々を過ごしながら、また新たなチャレンジを模索していきたいと思います。
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このコラムでは、アスリートたちの無限大の可能性への挑戦を応援する「サントリー チャレンジド・スポーツ プロジェクト」の取り組みと合わせて、私自身の日々のスポーツとの交わりや楽しさを綴ります。(掲載不定期)