SUNTORY CHALLENGED SPORTS PROJECT
谷真海の「チャレンジ、再び」第2回「戻ってきたワクワク感」
3月15日、オーストラリアのタスマニア島デボンポートで開催されたパリ・パラリンピックの代表選考ポイントの対象となっているシリーズ戦に出場しました。21年夏の東京パラリンピック以来となる約2年半ぶりの復帰レースとなりましたが、私が出場しているカテゴリー「PTS4(※)」クラスで、9選手中6位で完走することができました。
実は1週間前の8日にアブダビで開催予定だったレースが復帰戦の予定でしたが、直前に大雨・雷雨予報が出た影響で、急遽中止となってしまいました。当日も快晴だったので、会場まで行って準備をしていたところで、まさかの中止決定でした。自然を相手にするトライアスロンならではの出来事ではありましたが、ポイントを少しも得ることができず残念ではありました。しかし、久しぶりにレース開始までの準備と実戦に向けたシミュレーションを行えたことは良かったです。おかげで、デボンポートのレースには落ち着いて入ることができました。
復帰レースのテーマの一つ目は、選考ポイントを少しでも獲得すること、次に、実戦感覚を取り戻すとともに実戦の強度の中でトレーニングを兼ねてレースに挑むことでした。
パラトライアスロンは、最初にスイム0.75キロ、次にバイク20キロ、最後にラン5キロの順にレースが進みます。
最初のスイムで、全体3位につけました。義足を装着した後のバイクは苦手種目で、現地でのレースは2020年にも出場したことがありますが、風が強くアップダウンもあるので苦戦を覚悟していましたが、何とか粘りました。最後のランはゴールに向かうコースを間違えてしまい、1分位ロスしてしまいました。出場するまでは久々のレースに対する恐怖感もありましたが、終わってみれば、約2年半ぶりの復帰戦、そして準備期間を考えれば上出来のスタートだったと思っています。
何よりの収穫は、気持ちがすごくポジティブになれたことです。レース中にもワクワクする感覚が持て、「戦いの場に戻ってきたんだ」という楽しさを味わうこともできました。もちろん、まだまだコンディションやフィジカル、スタミナなどが戻っているわけではなく、苦しい場面もありましたが、それでも今後に向けた手応えをつかむことができました。
もう一つ、励みになることがあります。それは、同じ「PTS4」クラスの選手たちの存在です。PTS4は東京パラリンピックでは世界的な競技人口がそこまで多くないということで単独種目での実施が見送られました。パラリンピックは自らの障がいクラスが実施されないと、出場するためのチャレンジの機会すらもらえません。私は国際パラリンピック委員会(IPC)や国際トライアスロン連合の会長に英文で手紙を書き、「全てのアスリートに門戸が開かれるべきだ」と訴えました。結果的に、東京大会では、障がいの程度が軽い「PTS5」クラスと統合して行われ、なんとか私も出場がかなったという経緯がありました。
パリ大会は「PTS4」クラスが初めて実施種目となりました。そのことで選手層も厚くなり、東京大会にはいなかった10代の若い選手たちが頭角を現し、私よりも年上のママアスリートも活躍を続けています。パリ大会の「PTS4」は幅広い世代のアスリートが代表を懸けて競う構図になっています。ハイレベルな戦いを繰り広げる彼女たちはライバルではありますが、ともに「PTS4」を支える仲間でもあります。その中に加わって戦ってみたい、ということも復帰のモチベーションになっています。
そんな選手たちに刺激をもらい、「大きな一歩」を踏み出すことができました。
※PTS4:半身に軽度の障害、片腕に高度の障害があるか、または手足の欠損のある選手のクラスのこと
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このコラムでは、アスリートたちの無限大の可能性への挑戦を応援する「サントリー チャレンジド・スポーツ プロジェクト」の取り組みと合わせて、私自身の日々のスポーツとの交わりや楽しさを綴ります。(掲載不定期)