HEALTH CARE
23.07.11
「応援」を通じて高齢者がワクワクを感じ、サッカークラブや選手・地域とつながることで心も体も元気になることを目指す「Be supporters!(ビーサポーターズ)」企画推進リーダーを務める、サントリーウエルネス株式会社の吉村茉佑子(まゆこ)さん。2021年に立ち上がった同プロジェクトに対して、吉村さんが注ぐ情熱とやりがい、そして、プロジェクトの存在意義──さらには “新しいことへのチャレンジ” を惜しみなくサポートしてくれるサントリーウエルネス株式会社の揺るぎないチームワークに迫りました。
大学院時代にはアルツハイマー病の研究を専門にしていたという「理系女子」の吉村さん。このままずっと研究の場に居続けるのもどうか……という葛藤のすえ、一社だけ受けた文系総合職がサントリーホールディングス株式会社でした。
吉村さん:昔からサントリーが好きだったんです。中学・高校はコーラス部で部活中はけっこう水を飲むのですが、一人で水の飲み比べをしていたらサントリーの「天然水」が一番美味しかったんです。
あと、その当時は「伊右衛門」が「四季の味があります」ってキャッチコピーで、「お茶に四季の味があること」を気づかせてくれました。「春=爽やか、夏=すっきり、秋=深みがある、冬=コクがある」みたいに(笑)。「このブランドすごい!」と感動してしまったんです。
2019年に入社した直後、吉村さんはヘルスケアやスキンケアの領域の事業を展開するサントリーウエルネス株式会社へと出向することに。「ウエルネス」という名前が社名にある通り、お客様に「心も身体もいちばん健やかに美しく輝いた状態」であり続けてほしいという想いのもと事業を展開している会社です。
吉村さん:正直、「また健康分野か……」という感じでした(笑)。大学院で朝から晩までアルツハイマー病の研究をしていたので、「健康系はやり切ったな」という気持ちが強かったんです。サントリーに入社したときの気構えも「お酒を売る!」だったので。
出向当初は、お客様とのコミュニケーションの前線に立つコンタクトセンターでマネージメントやオペレーターへの商品研修などを担当していた吉村さん。そこで約2年半の経験を積んだある日──「いくつになってもワクワクしたい、すべての人へ」をコンセプトとする「Be supporters!」プロジェクトが新しくスタートすることを耳にします。
吉村さん:「Be supporters!」は、日頃「支えられる」立場にある高齢者施設に入居されている方や、認知症の状態にある方など、地元サッカーチームのサポーターになることで「支える」側になる──サポーターになることで新しいワクワク感を発見し、心も身体も元気になることを目指す活動です。
私は大のおばあちゃんっ子なのですが、おばあちゃんが年を重ねていくごとに、だんだんとしんどそうに見えることがありました。アルツハイマー病の研究も自分の家族が辛そうなところを見たくないから始めたんです。
社内で「Be supporters!」立ち上げの話を聞いたとき、「これは絶対に世の中の価値観を変えられる!」と直感しました。これから社会がどんどん高齢化するなかで、健康食品の会社として病気の「予防」だけではなく、「人生100年時代」に誰もが自分らしく輝ける「共生」に向き合うプロジェクトだからです。
社内で同プロジェクトのプレゼンがあったとき、現社長の沖中(おきなか)が「社員全員に参加してほしい活動だから、興味があれば僕にメールをください」と言っていたので、すぐメールで「参加したいです!」と直談判しました。
その熱意が伝わったのか、希望通りにプロジェクトメンバー入りすることができました。
さらりと「直談判した」と吉村さんは言います。しかし、入社3年にも満たない新人社員が、はたしてそうも簡単に “企業のトップに立つ人物” に直接希望を伝えられるものなのでしょうか。
吉村さん:サントリーウエルネスは風通しがいい会社なのかなと。もちろん、一般的な上下関係はありますが、沖中は「社員のひとり一人と30分話す機会」を定期的に設けたり、社内のオープンな空気をつくることにはかなり積極的です。
現在、参加施設は約100施設、人数にすると延べ約2500人──ただ、プロジェクト立ち上げたばかりのころはコロナ禍でもあったため、「いろいろと苦労も多かった」と、吉村さんは振り返ります。
吉村さん:施設の職員さんを集めて毎日毎日、説明会の連続でした。最初はメディア露出も全然していなかったので、記者会見を開いても私たちの意図が伝わっているかなと不安になり……。ゼロイチのスタートだったので、「これで大丈夫なのかな?」と、自信もなくなってきて……かなり苦しかったですね。
そんな吉村さんを、いつも温かく見守り、励ましてくれたのは会社の “仲間” でした。
吉村さん:私は、すぐまわりに話を聞いてもらうタイプなんです。社内の先輩からお母さんまで……。そういった愚痴をこぼしやすい社風も、またサントリーウエルネスの魅力なのかもしれません。
会社の実利に直接的には結びつきづらいものかもしれません。でも、サントリーには会社が得た利益は事業への再投資、お客様、そして社会に還元するという「利益三分主義」の創業精神が根づいており、他の社員も私たちの活動を見て励ましてくれて……。その懐の深さには常々感謝しています。
吉村さんがプロジェクトに参加してから約2年──今では現場に足を運ぶと「皆さん、“応援すること”を通じて、ずいぶん顔の表情が豊かになった」と、吉村さんは笑みを浮かべます。
吉村さん:みんなで一体となって応援していると、すごく盛り上がって、引っ込み思案な性格だったり、耳が遠くて孤立気味だったりした高齢者の方でも、不思議とすんなり輪に入ることができるようになって、職員さんとの距離も近くなるんです。
写真提供:高齢者総合福祉施設オリンピア兵庫
「自分もサッカーが好きだから、この施設で『Be supporters!』を手伝いたい」と、施設の職員採用にも好影響を与えているとも聞きます。
こんなエピソードがありました。富山県の施設でJ3のクラブチーム「カターレ富山」を応援しているなかで、認知症で塞ぎがちだった男性がみんなのリーダー的な存在になって……。今年お亡くなりになってしまったのですが、ご遺族の方が「この施設に入ってからは、とにかく『カターレ富山』を応援することがすごく楽しそうで。まるで昔の姿に戻ったようでした」と感謝された……と、施設の職員さんが教えてくれました。
このようなエピソードを通して、やはり「人生100年時代」、?健康寿命”だけではなく、最後の一瞬まで自分らしく輝く?幸福寿命”が大切だということを教えていただいているような気がします。
「Be supporters!」の仕事に携わっていくうち、「ある一つの大きなことに気づいた」と、吉村さんは語ります。
吉村さん:「高齢者だから」と決めつけないことです。その前に「この方たちどういうことをしたら、ワクワクするんだろう?」という想像力を大切にしたい。
「Be supporters!」では、職員さんが「体操をやろうよ」と呼び掛けてもバラバラとしか集まらないのに、応援となるとみんなが一致団結するのは不思議、というお声も聞きます。まず自分も楽しいと思えることで、シニアの皆さんだとどう楽しんでもらえるか……を必ず考えるよう心がけています。
最近は若い世代の「多様性」が着目されていますが、私はシニアの皆さんこそ多様性だと思っています。なのに、社会にはその「当たり前」に気づけなくなってしまって、ある種の「思考停止」になってしまっていることが見受けられ、もったいないと思います。
シニアの方々が生き生きと日々暮らしている姿は、私たち若い世代にとっても「希望の物語」なんです。その「物語」を紡ぐお手伝いができないかと試行錯誤し、実行していくのが私たちの使命なのかな……と、あらためて実感しています。
そして、「決めつけ」から始まる「思考停止」は、「高齢者に対する接し方」に限った話ではない……と、吉村さんは指摘します。
吉村さん:たとえば、就活のときって「ここの会社が受からなかったら、自分の人生が終わってしまう……」みたいな悲壮感があるじゃないですか。だけど、第一志望の会社に入れなくても、行きたい部署に行けなくても人生はいつでも変えることができると思うんです。
今のタイミングで「成功か失敗か?」ではなく、万一結果として行きたい会社に行けなくても「じゃあ、ここで私はなにをやればいいのか、どう幸せに生きていけばいいのか?」を自問自答する──今は「人生100年時代」なので、いろんな道が自由に選べます。
そういうこともシニアの皆さんから学びました。周囲と比べて卑下するのではなく、就活はあくまで「自分が幸せになるための1ステップに過ぎない」と割り切ることができれば、少しは気分も楽になるのではないでしょうか。
サントリーウエルネス株式会社
経営企画本部
吉村茉佑子/よしむら・まゆこ
1995年生まれ、兵庫県神戸市出身。京都大学大学院農学研究科に入学。大学院ではアルツハイマーの研究に専念。2019年、サントリーホールディングス株式会社に入社。同年、サントリーウエルネス株式会社のCRM推進部(当時)に配属される。お客様に一番近い部署としてコンタクトセンターでマネージメントやオペレーターへの商品研修などを担当。2021年2月、「Be supporters!」プロジェクト立ち上げ時に「この仕事が絶対にやりたい!」と直談判。約半年の兼務を経て同年9月、「Be supporters!」企画推進の専任となり、高齢者と地域サッカークラブを結ぶ架け橋的な役割を務めている。