心まで酔わせるアマローネと進化形の国産ブルーチーズ
「チーズは好きだけど、なかなか名前を覚えられない。」
そんな風に思った事はありませんか?カタカナばかりで難解に感じられるチーズの名前ですが、実はその多くが 、作られている産地に由来しています。例えば、世界3大ブルーチーズとして日本で知られている「スティルトン」「ゴルゴンゾーラ」「ロックフォール」。この3つは全て発祥の村の名前でもあります。原料乳を生み出す動物たちが育まれた自然環境、そしてチーズが製造、熟成されるその土地の個性、つまり「テロワール」は、ワイン同様チーズを作る上でとても大切な鍵となります。だからこそ、歴史あるチーズの多くはその土地の名前を名乗っているのでしょう。
チーズを食べるとその故郷の風景が浮かぶ、そんな大地のエネルギーを体現するチーズを目指して情熱を傾ける生産者が、日本にもいます。「江丹別の青いチーズ」を手がける伊勢ファームの伊勢昇平さんです。北海道旭川市江丹別町で作られているブルーチーズ(青カビチーズ)だから「江丹別の青いチーズ」。捻りを利かせたネーミングが多い国産チーズの中でのそのネーミングは、直球勝負の心意気を感じさせます。「江丹別=青いチーズというイメージをもってもらい、一つの土地の持つ力をよりダイレクトに感じていただければ嬉しいです。」と語る伊勢さんは、まだ20代の新進気鋭の注目の作り手です。帯広畜産大学を卒業後、北海道新得町の共働学舎でチーズづくりの基礎を学び、故郷の江丹別でしか出来ないチーズを作ろうと決意。内陸に位置し、気温の年較差が大きく冬は積雪がある、という江丹別の気候風土に近い所をヨーロッパで探したところ、ブルーチーズの名産地が多いことに気がつき、ブルーチーズ作り一本にすることを決めたと言います。彼の作る青いチーズは、パセリ状の細かいカビが一面に美しくびっしりと生えています。カビのピリリとした刺激的な辛み、皮付近の香ばしさ、そして後からぐんぐんと出てくる生地のミルクの甘み、季節の移り変わりとともに若干変化していくその味わいは既に全国のチーズ愛好家を唸らせています。
食べ物が私たち人間の健康を左右するのと同様、草は牛たちにとって何より重要です。伊勢ファームでは、彼のお父様が1974年に入植した当時から、「牛は自然に任せつつ、最小限の世話をしてやる」という一貫した方針で、化学肥料を入れず土地の表面を掘り返すこともしていません。そのため適切な生態系が根付き、牛にとって最高の草を生み出すことができます。牛が良い草を食べ、排泄し、それがまた良い草、土地を作っていくという生命の循環が、ここでは今も変わらず行われています。「青いチーズ」は小さな工房で伊勢さんがお一人で作られていますので、生産量はごくごく限られています。でも2011年に販売開始後ジワジワとファンを増やし、予約して待ってでも食べたいという人が後を絶ちません。独自に研究を重ねる製造方法は日々進化を遂げており、今後も目が離せないチーズです。