[an error occurred while processing this directive]

登美の丘ワイナリー通信

ワインづくりの現場から

世界との交流

造り手たちのワイン談義 Vol.1「登美に息づくボルドーの技」

【特別対談】

椎名敬一(シャトー・ラグランジュ 副会長)

×

渡辺直樹(サントリー登美の丘ワイナリー ワイナリー長)

 

 

青空にくっきりと富士山が映える冬の日、登美の丘ワイナリーをボルドーのグラン・クリュ・シャトー、ラグランジュで陣頭指揮をとる椎名敬一氏が訪れました。

渡辺直樹ワイナリー長との会話から、登美の丘とラグランジュの深い繋がりが見えてきました。

 

170403_1.jpg

 

 

●<登美>に繋がったボルドーの日々

 

渡辺:実は、ボルドー大学を卒業後、ラグランジュで半年近く実習していました。畑の特徴の捉え方、収穫のタイミングの見極め方、栽培管理のポイントを学ばせてもらったんです。大学で理論を学び、ラグランジュで実践したという感じでした。

 

170403_2.jpg
サントリー登美の丘ワイナリー所長 渡辺直樹

 

 

椎名:そうでしたね。当時、私はまだ東京だったのですが。

 

渡辺:その時のラグランジュのワインの印象は、とにかく「濃い」ことでした。単にタンニンが強いというより、葡萄の凝縮感がすごかった。「日本のワインとどこが違うのかな」と思って。実習の間はとにかく写真を山ほど撮って検証していましたね。搾りかすの断面とか、梗(こう)の熟し具合とか。そうするといろいろなことが分かったんです。たとえば破砕機で「軽く潰す」と言いますね。この「軽く」の度合いが登美の丘とラグランジュでは違う。

 

椎名:どういうふうに?

 

渡辺:登美の丘の機械で軽く潰したものは、ラグランジュの搾りかすと比べると「がっちり潰した」に等しいことがわかったんです。同じようにするなら軸と粒を離すだけの状態で十分だったわけです。言葉を真似るだけでは駄目で、それがどういう意味なのか検証するのが重要だとラグランジュで学びました。

 

椎名:それを帰国後に登美の丘で実践してみたと?

 

渡辺:そうです。学んだことをきわめて素直に生かした結果が96、97年のヴィンテージでした。実は、それがやさしさ、柔らかさ、繊細さを兼ね備えた今の登美のスタイルのベースになっています。

椎名:なるほどね。

 

渡辺:80年代後半から90年代にかけて<登美>はタンニンの強いつくりでした。いかに濃い葡萄を育て、いかに醸造でその強さを引き出すかでした。

 

椎名:あの時代はボルドーのようなワインを目指していましたからね。

 

渡辺:でもラグランジュに行ってわかったんです。たとえばボルドーで言う「濃さ」と、登美で目指していた「濃さ」は理解が違っていたということが。ポリフェノールの量の多さではなくタンニンの質や、熟した果実ならではの要素が「濃さ」の意味だったんです。やさしさや柔らかさも兼ね備えながらも凝縮感があるということだと思い至りました。そこから求めるべきは「しなやかな強さ」だというイメージが生まれました。やさしくて柔らかで繊細だけれど緻密に詰まっている強さなのではないかと。それで、ラグランジュで学んだことを登美の丘の土地の特徴を考えながら目指してみようと。

 

椎名:それが96年、97年のヴィンテージになったわけですね。その頃私は東京で日本のワインのビジョンを描く仕事をしていたんですよ。

 

渡辺:その時は登美の丘ワイナリーをどう位置付けていたんですか?

 

椎名:<登美>で日本一を目指し、やがて世界に持っていけるワインにしたいな、と。

 

 

 

●土地を見極め、ワインを磨く

 

渡辺:そのためにも土地を生かしたワインを造りださなければ。日本でワインづくりはたかだか150年弱しかありません。長い歴史と伝統があるヨーロッパとはまったく違う。品種も手法も「これがやり方だ」と枠にはめてしまうにはまだまだ早いと思っています。この土地を生かしたワインを生みだすには、まだまだチャレンジが必要ですね。

 

170403_3.jpg
シャトーラグランジュ副会長 椎名敬一

 

 

椎名:ラグランジュでは、これまで長い伝統が培ってきたクラシックなスタイルを磨きあげていくことが大事ではないかと考えています。スタイルはテロワールによってある程度決まってきますし、この土地でなにを引き出していけるか時間と手間暇をかけて一日一日積み重ねていくだけです。そこに何を加えられるか。最終的には日本人らしい緻密で繊細でバランスのとれた良さをワインに表現していきたいと思っています。30年前、日本人がシャトーのオーナーになって積み重ねてきた付加価値をしっかり築きあげられればと思います。

 

渡辺:土地の良さをどこまで引き出せるか。本当に「美味しい!」と言ってもらえる世界はその先にある気がします。

 

椎名:ワインづくりは農業ですから。土を見極め、畑を作りこみ、葡萄が熟すタイミングを推し量る。そうして初めて良いワインが実現できる。ここ数年、ラグランジュでは区画の細分化と醸造用のタンクの小容量化に取り組んでいます。土壌は2メートル違えば個性が変わります。区画が細かくなればなるほど土地の良さを生かせるし、収穫の微妙なタイミングを測れる。2009年からは光学式の選果機を導入して精密に粒選りができるようになり、より完熟した葡萄を収穫できるようになりました。

 

渡辺:これからが楽しみですね。

 

椎名:一歩ずつ、一日ごとに磨きながら、全てにおいて「ラグランジュらしい」と言われるような、気品やエレガントさを表現したいと考えています。

 

渡辺:登美の丘も、土地の特徴を見極めていくことで世界に届く価値を見つけたいと思っています。

 

椎名:登美の丘もラグランジュも、まだまだ試行錯誤が必要だと思います。でも我々はそれをやり続けなければならない。でないと結論はいつになっても出ませんから。

 

渡辺:まさに「やってみなはれ」の世界ですね。

 

 

(つづく)

造り手たちのワイン談義 Vol.2「味わいの原点は風土の力」 

造り手たちのワイン談義 Vol.3(最終回)「ラグランジュと登美の丘、味わいの裏側を語る。」

登美の丘ワイナリー通信のTOP

TOPへ戻る