2017年2月某日に登美の丘ワイナリーで行われた、瓶内二次発酵を終えたスパークリングワイン「登美の丘 スパークリング甲州 2014」の「デゴルジュマン」と「ドサージュ」についてレポートします。
その前にご説明しておきますと、登美の丘 スパークリング甲州はシャンパンと同じ製法である瓶内二次醗酵を採用しています。
瓶内二次醗酵を行うにあたり、通常のワインを仕込んだ後、スパークリングワイン用のボトルに充填し、糖と酵母を添加して瓶口にビデュルというキャップをし、王冠で打栓をします。
ビデュルは王冠の内部に挿入されルミアージュの時にオリを内部に収集する役割をします。その後瓶熟庫で貯蔵しておくと、瓶の中の密閉状態のワインの中で酵母が活動を始め、醗酵が開始。
こうして醗酵で発生する炭酸ガスがワインの中に溶け込んでいくことになります。
そして分解する糖が無くなって発酵を終えた酵母は、オリとなってワイン中に多くの量が沈殿していますが、このオリとなった酵母は徐々に自己分解されてアミノ酸となり、ワインに旨味を付与してくれるという効果もあります。
オリ由来の旨味効果としては登美の丘の甲州やシャルドネなど白ワインの製造方法で用いるシュールリーと同じ作用です。
登美の丘ではスパークリングワインは18カ月の熟成を基準としています。
その後ルミュアージュというワイン中のオリを瓶口に集めていくための工程に移ります。
二次醗酵を終えたワインの入った瓶をピュピトルというスパークリング製造のみに使用する特別な台に差し込んでオリを瓶口に集めていくために、毎日毎日ボトルを回転させ角度を変えていきオリを瓶口まで下げていきます。
この作業のことを、「ルミュアージュ」と言い、瓶内の全てのオリを集めていかなくてはなりません。オリは非常に微細なものですので、瓶の内面に付着していると、単に倒立させるだけでは自然に瓶口に集まってくれません。
そのため、いきなり倒立させるわけではなく、最初は緩やかな角度で毎日毎日瓶を揺するようにして振動を与えながらボトルを回転させて、徐々に倒立させていくようにします。
こうしてオリを瓶口まで集め終わるといよいよデゴルジュマンを開始します。
左:ピュピトルに差し込まれている二次醗酵を終えたワインたち 右: 「ルミュアージュ」を行っている様子 |
デゴルジュマンの主な工程として
1)瓶口のオリ部分を凍結させる
2)瓶口を洗浄
3)デゴルジュマン(オリ抜き)を実施
4)瓶内のワインを一定量抜き取る
5)門出のリキュールを添加
6)液面を750mlに調整
7)コルクを打栓し、ワイヤーで固定
といった、7つの工程を行います。
ルミュアージュをしてオリを下げたボトルを、ピュピトルからボトルを逆さのまま抜き出してきて、最初にオリの集まっている瓶口部分を凍らせる作業を行ないます。
ネックフリーザーという―27℃前後の冷媒が入っている専用機械にボトルの首の部分のみ漬けて7分。
そうすることによって瓶口に集めたオリをワインの液体ごと凍らせて固めます。
その後、ネッグフリーザから静かに瓶を上げ、瓶口を洗浄し、冷媒を除去します。
専用の栓抜きを使って王冠を開けると、瓶内二次発酵でボトル内で生じたガスの勢いで、瓶口部分に集まったオリが飛び出てきます。
酵母のオリを効率よく排出させるための補助パーツ、ビデュルにオリが集まっているのがわかります。
中栓のようなビデュルの中に酵母の残骸のオリが凍った状態で収納されて出てきて、しばらくすると氷が溶けてオリのある濁った液体に戻ります。
凍らせることで効果的にオリが除去できていることが実感できます。
その次に、ドサージュという工程に移ります。
ボトルによってオリとともに噴出してくるワインの量は異なるため、最終的に750mlの容量に戻すべくワインを補填していきます。
ワインの入った筒とポンプが配置されている中心部から放射線状に8本のノズルの出た円形状のドサージュ機に1本1本抜栓したボトルを人の手で設置していきます。
当該機において最初のノズルでワインを少量抜き、次のノズルでリキュールを添加するドサージュ操作を行い、最後のノズルでワインを補酒することにより液面を調整していきます。
このドサージュの際のワインを補填する時に「門出のリキュール」と言って、同じベースワインに糖分を加えたものを味わいの調整のために行ないます。
前年の「登美の丘 スパークリング甲州 2013」のドサージュ時には、糖分は全く入れない設計にしましたが、「登美の丘 スパークリング甲州 2014」では味わいに厚みを持たせるために、若干ではありますが糖を添加しました。
糖を添加したといっても、シャンパンの「Extra Brut」という規格(糖度0~6g/L)になり、味わいは「辛口」になります。
750mlに補充されたボトルはそのままコルクを打ち込んで密閉するのですが、それも1本1本手作業で打ち込みます。
通常の発泡性のないワインは、円筒形のコルクを全て瓶の中に打ち込んでいますが、スパークリングワインの場合のコルクは、通常のコルクと違って直径3cm×長さ3cmの大き目のものを使用します。
その直径を一旦1.5cmに圧縮して直径2cmの瓶口に打ち込みますが、半分打ち込んで上に残ったコルクに金属プレート(=ミュズレと言います)を置いて、さらに上から押しながら座金で巻き締めて、コルクが中の炭酸ガスの圧力で飛び出さないようにします。
左手でレバーを降ろしながら上から圧力をかけて、右手で座金のワイヤーを瓶の口の出っ張りにかかるようにして4回転クルクルと巻き締めていきます。
こうして座金を巻き締めたボトルは、最終的な検査で、巻き締めがしっかりと出来ているか、ワインの中のオリがちゃんと除かれているか(=濁りがないか、オリが瓶の内壁にこびりついてないか)、ワインの量はきちんと入っているか等を、人の目でしっかりと確認していきます。
その後もう一度瓶熟庫にて熟成をさせ、ワインが落ち着いたところにリリースいたします。
このように手間と労力をかけてつくり上げていく「登美の丘 甲州スパークリング 2014」は、甲州種特有の柑橘系や洋ナシの香り、また白桃や青リンゴといった香りに加えて酵母由来の香ばしさ、全体に複雑味としっかりとした骨格が感じられます。柔らかい酸味のフィニッシュは非常に爽やかでバランスが良く心地よい味わいに仕上がっております。