今、登美の丘ワイナリーでは、瓶内二次発酵のスパークリングワインの役目を終えた酵母のオリを下げるためのルミュアージュ(Remuage)という作業を毎日行なっています。
スパークリングワインの製法に「瓶内二次発酵法」というものがあります。
発泡性のスパークリングワインのワイン中に炭酸ガスをもたらすのに色々な方法がありますが、なかでもシャンパンに代表される、この一番手間のかかる方法で、「登美の丘 スパークリング甲州 2013」は、品質をつくりこんでいます。
まず、通常のワインを仕込んだ後、スパークリングワイン用のボトルに充填し、そのワインに糖と酵母を添加して王冠をして瓶熟庫で静かに置くと、瓶中の密閉状況のワインの中で酵母が活動を始め、糖が酵母によってゆっくりとアルコールと炭酸ガスに分解されます。元のワインに対して添加する糖と酵母の量は、求めるガス圧とアルコール度数の計算によって導かれます。こうして発酵で発生する炭酸ガスがワインの中に溶け込んでいくことになります。そして分解する糖が無くなって発酵を終えた酵母はオリとなってワイン中に多くの量が沈殿していますが、このオリとなった酵母は徐々に自己分解されてアミノ酸となり、ワインに旨味を付与してくれるという効果もあります。ただ、求める味わいの実現という意味においては、このオリと接触させておく熟成期間というのも重要で、(ノンヴィンテージシャンパンでは15カ月以上の熟成が法律で決まっていますが)登美の丘では18カ月の熟成を基準としています。
そして、美味しく召し上がっていただくためには、このワイン中のオリを取り除かなければなりません。
今回レポートする「ルミュアージュ」とは、そのワイン中のオリを瓶口に集めていくための工程です。
そのオリを集めていくために用いるのが、「ピュピトル(Pupitre)」と呼ばれる特別な台です。
横70cm×縦150cm前後の板が2枚、上側の短辺が蝶番で組み合わさっていますが、片方1枚の板には、約10cm×150cmの板が6本横につながって、それぞれに10個の穴があいています。つまり片面で60本のボトル・両面で120本のボトルを収納することができるようになっています。
そのピュピトルの穴の中に瓶内二次発酵を終えたワインのボトルを指していくのですが、瓶内の全てのオリを集めていかなくてはなりませんので、丁寧なやり方を細かく定めています。オリは非常に微細なものですので、瓶の内面に付着していると、単に倒立させるだけでは自然に瓶口に集まってくれません。なので、イキナリ倒立させるわけではなく最初は緩やかな角度でピュピトルに差して、毎日瓶を揺するようにして振動を与えながらボトルを回転させて、徐々に倒立させていくようにします。
このオリを瓶口に集めていくために毎日ボトルを揺らして回転させ角度を変えていく作業のことを、「ルミュアージュ」といい、ソムリエ協会のワイン教本では「動瓶」と訳されています。
スペインのカヴァと呼ばれる瓶内二次発酵のスパークリングワインなどは、この作業をまとめて機械でやってしまいますが、登美の丘ワイナリーでは1本1本人間の手でやっています。
ボトルの倒立の角度が変わっていく様子をわかりやすく見ていただくために1本だけ変えてみました。 最初は緩やかな角度のポジションで瓶をセットします。 |
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毎日毎日ボトルを揺らしながら回転させながら徐々に倒立になるように角度を変えていきます。 | ||
最終的にはこれくらいの角度です。倒立といっても真っ逆さまである必要はありません。 |
なお、ピュピトルをよく見てみると、単純に板に穴が開いてるだけなのではありません。登美の丘ワイナリーで使用しているのは、シャンパーニュ地方のエペルネという都市にあるメーカー製で、その穴の構造を見ると、感心してしまうほど非常にいろいろな工夫がされていることが良くわかります。
瓶内のガス圧に耐えるだけの強度を持つために厚みのあるスパークリングワインのボトルは、通常のワインボトルに比べて非常に重い瓶になっています。その重いスパークリングワインのボトルを支えるためにピュピトルの板は厚みもありますが、そこに開けられた穴の角度、そして縦板の裏には横板があり、そこにもよく考えられた細工がされています。開けられている穴の裏を見てみると、スパークリングワインが倒立しやすいように穴の下側にさらにカーブが切ってあります。ルミュアージュによって瓶が徐々に傾いていくのに際して、ボトルを支える支点が変わっていき、どんな角度でもボトルをキープできるようボトルのための空間を確保するように工夫がされているのです。単に板に穴を開けているだけではなく、ちゃんと考えられて手間のかかる作業をしてピュピトルはつくられているのだとわかります。フランス人のシャンパンにかける情熱を垣間見たような気がします。
また、瓶を揺らしながら傾けていくのに際して、登美の丘ワイナリーでは1日1回90度回転させるようにしていますが、瓶をどれだけ回したか瓶だけでは見た目で全くわかりません。そこで、登美の丘ワイナリーでは瓶底にマーキングをして昨日までの瓶の位置をひと目で把握できるようにしています。瓶をちゃんと回したか、何かの機会に手が止まったときにどこまでやったかもマーキングをつけていれば、一目瞭然です。もちろん、最終出荷するまでにマーキングをきれいにふき取ります。
このようにして最終的に瓶口に集められたオリは、次のデゴルジュマン(Degorgement)という工程で見事に取り除かれるのですが、それはまた後日レポートさせていただきます。
毎日毎日重いスパークリングワインのボトルを1000本以上も持ち上げて揺らしながらルミュアージュするスタッフは、「この作業してると、腕がパンパンになるよ」と、苦笑いしながら取り組んでくれていますが、このようにして、1本1本の瓶を手作業で仕上げていく瓶内二次発酵の「登美の丘 スパークリング甲州」ですので、わずかな量しかつくることができません。
2015年の日本ワインコンクールでも銀賞を受賞するなど中味品質も非常に高く評価していただいており、毎年発売するとすぐに完売してしまいます。ワイナリーのショップでも「お一人様2本限り」でお願いしていますが、それでも毎年すぐに完売してしまって、ご購入いただけない方々にお詫び申し上げている状況です。
今年の発売の時期が来ましたら、またご案内させていただきます。
(申し訳ありませんが、ご好評につき、既に完売しております)
サントリー登美の丘ワイナリー 甲州スパークリング 2012