今、登美の丘ワイナリーの醸造棟では、今年収穫したぶどうの仕込みのアルコール発酵が完了し、タンク熟成するものと、樽熟成するものとに分けて移行する真っ最中で、赤ワインと一部の白ワインに関しては、マロラクティック発酵が進行中、もしくは、これからマロラクティック発酵を行なうというところです。
アルコール発酵は、まさしくアルコールが生成される発酵で、酵母が糖分をアルコールと炭酸ガスにしてくれる作用を言います。一方、マロラクティック発酵は、発酵という言葉がついていますが、アルコールは生成しません。乳酸菌がワイン中のリンゴ酸を乳酸と炭酸ガスにする発酵のことをさします。
リンゴ酸(Malic acid)が、乳酸(Lactic acid)に変化する発酵(Fermentation)ということで、Malo-Lactic Fermentationと書き、略して「M.L.F」とか「マロ」と呼んでいます。
マロラクティック発酵を行う目的としては、大きく2つあります。
1つ目は、味わいの変化です。ワインの中に含まれる酸味が鋭いリンゴ酸が、マロラクティック発酵によって、酸味がおだやかでやわらかい乳酸に変わるので、ワインの味わいとして酸味の角が取れてやわらかくまろやかになります。さらにマロラクティック発酵の過程において、様々な香味も生成されるため、それによって味わいに複雑味を付与してくれます。
2つ目は、ワインの安定性です。リンゴ酸は、微生物にとって食べられやすい性質の酸であり、これが食べられにくい乳酸に変わることでワインがより安定して熟成することができるようになります。また、マロラクティック発酵では乳酸菌が他のアミノ酸などのワイン中の栄養素も使ってしまうので、他の雑菌が生えにくくなるのです。
そういうわけで、味わい的に果実的なイキイキとしたクリスピーな酸味を大切にしたいリースリング・フォルテやソーヴィニヨン・ブランなどの白ワインは、あえてマロラクティック発酵はしませんが、一部の白ワインや新酒を除いて赤ワインは全てマロラクティック発酵を行なっています。
白ワインのうち樽でのアルコール発酵を終えたワインは、そのままスターターである乳酸菌を添加することにより、そのまま樽でマロラクティック発酵を促しますが、タンクでアルコール発酵を終えた白ワインはそのままタンクでマロラクティック発酵を行なうものもあります。赤ワインの場合は、アルコール発酵を終えた後、果皮や種、酵母を分離するためにプレスした若いワインをステンレスタンクに移し、その中でスターターの乳酸菌を添加してマロラクティック発酵を行ないます。
自然に放置したままで偶発的なマロラクティック発酵を待つよりも、登美の丘ワイナリーでは求めるべき品質をコントロールするためにスターターとなる乳酸菌を添加しますが、培養されフリーズドライにされたものを使用しています。パラパラとしたちょっと大きめの顆粒になっています。袋の中の香りを嗅ぐと乳酸菌ですからやっぱり酸っぱい感じの香りがします。フリーズドライなので非常に軽く、舌に乗せるとすぐに溶けて、酸っぱいと言うよりもお出汁のような旨味を後味にずっと感じます。
これを所定の量だけワインで溶かしてあげてから、そのワインに加えマロラクティック発酵を促してあげます。ちなみに、この乳酸菌も多くの種類がありますが、それぞれのワインの状態によって使用する乳酸菌も使い分けています。
登美の丘ワイナリーも11月下旬以降ともなれば朝夕非常に冷え込んでとても寒くなります。マロラクティック発酵は温度が低いと発酵が進まない状態に陥ることがしばしば。そのために、温度コントロールのできるセラーに入れたり、ステンレスタンクの外周の配管にぬるい温水を流すことによってワインの液体の温度を少し上げて、マロラクティック発酵を促してあげるなどのお世話をしてあげます。
酵母によるアルコール発酵が、沸き立つように炭酸ガスが出るのに対して、マロラクティック発酵での炭酸ガスの発生は非常におとなしい印象を受けます。なので、撮影してもなかなかご覧いただけないのですが、マロラクティック発酵が進行中のワインを口に含むと、かすかに発泡性だとわかるくらいのプチプチした刺激を舌に感じます。味わいとしても酸味がシャープでアンバランスな印象を受けます。
マロラクティック発酵を完了したら、これがやわらかくまとまりのある味わいに変化していきます。
そして、この後、赤ワインの一部はタンク熟成するもの、一部は樽熟成するものに分かれて、それぞれワインを育成していきます。今年、フランスから輸入した樽も容量検定と印字を済ませて樽熟庫にスタンバイは完了しています。樽詰めの様子はまた後日レポートさせていただきます。
登美の丘ワイナリーの醸造棟のワインづくりの取り組みは、休みなくまだまだ継続していきます。