登美の丘ワイナリーでは、さまざまな醸造技術を用いてワインの品質をつくり込んでいます。
ぶどう果実をプレスして果汁をそのまま発酵させれば白ワインになるのですが、その醸造工程において、様々な工夫を行なっているひとつに「凍結濃縮」が挙げられます。
たとえば、赤ワインの醸造において「セニエ」と言って、ぶどうの果皮と種と実を全て一緒に発酵させていく初期段階で、一定量の果汁だけを抜くことにより、残った果汁に対して相対的に果皮や種の比率を上げて凝縮した赤ワインとして醸造していく方法は知られていますが、「凍結濃縮」も白ワインの果汁に対して同様の効果を期待する取り組みのひとつです。
プレスした果汁をステンレスタンクに入れ、マイナス3℃の凍結液をタンクの周りに巡回させて果汁を冷やしていきます。10月にプレスし1ケ月間の間ずっと果汁を冷やしていくと、タンクの中の果汁の中の純粋な水の部分が徐々に氷の結晶となってタンクの側面や表面に氷の層をつくっていきます。それにともなって、液体として残る果汁のエキス成分が濃縮されていくのです。
但し、プレスしたもともとの果実の質や状態が異なり、タンクごとに果汁の状況が異なるために、何日かけて凍結させるかは一概に決めつけることはできません。醸造スタッフがタンクごとに果汁の状態を確認して、いつ果汁を発酵タンクに移出して、発酵を開始させていくかを品質Gのスタッフとともに判断していきます。
凍結濃縮させているステンレスタンクの上の開口部分からタンクに入った果汁の表面だけを見る限り、凍って硬くなっているだろうことが単にわかる程度です。タンクの内壁がキラキラと輝いているところから、ステンレスタンクの中が極度に冷たくなっているだろうことも想像できます。
実際に凍結させたタンクから別の発酵タンクに移出する際に、そのエキス分が濃縮された果汁を受けているところに近づくだけで、果汁が非常に冷たい状態であることが、その冷気ですぐにわかります。
破砕場でぶどうの果実からプレスしたての果汁は、様々な果実の細かな成分が入っているために、透明と言うよりもアイボリー色に濁っていますが、約1カ月もの間、静置され冷やされた果汁は、その固形成分は沈殿して、グラスに注ぐと美しく澄んでおり、ワインのような錯覚を覚えます。色調は輝くようなレモンイエロー。非常に美しいテリがあって、トロッとした粘性も感じます。品温が低いながらも、香りは縦に上るような澄んだ香りが魅力的です。口に含むとボリューム感のあるふっくらとした口当たりとたっぷりとした果実感を感じます。心地よい甘みとともにほどよい酸味を感じ、後味はキレイに切れます。アルコール分を含んでいない違和感に、「あぁ、まだ果汁でした」と我に返ります。
ステンレスタンクの中の果汁が出た後のタンクの中を見ると、残ったオリの部分とともに、タンクの内壁一面に張り付いた氷の多さに驚きます。なにより何メートルもの上に張っている表面の氷がビクともなく支えられており、直系約3mのタンクをぐるりと回るその氷の層は15cmにも厚さになっています。果汁を払い出したステンレスタンクの中は、アイボリーだった果汁の色の名残と凍った氷の光の具合からかうっすらとオレンジ掛かった色に輝いていて美しいですが、まさしく凍てつくような寒さです。
こうして凍結濃縮して得られた美しくも豊かな果汁は、発酵タンクに移出して酵母を加えて発酵を促していきます。通常の仕込みから考えると1カ月以上も遅く発酵を開始することになります。
そして、このようにしてつくったワインと通常に仕込んだワインとをアッサンブラージュ(=ブレンド)して味わいを構成していくという非常に手の込んだワインづくりを行ない、品質をつくり込んでいます。
この製法を用いると、プレスした果汁そのままを仕込むよりも、水分を氷として除くので得られるワインの量は通常に仕込むよりも少なくなっています。果汁を取り出した後にタンク内に残った、分厚くびっしりと凍った氷の層は、放置していてもなかなか解けないので、常温の水を入れて溶かしてから排水処理します。登美の丘ワイナリーで「ワインの味わいをつくり込むために、凍結濃縮の方法も行なっています」とお話すると、時々「ぶどうをそのまま凍らせて、凍った果実を絞るのですか?」という質問を、特にワイン醸造をよく勉強されている方からお受けしますが、そうではないということをお伝えしたかったので、今回実際の様子をレポートさせていただきました。
ワインづくりの様々な取り組みを行なっている登美の丘ワイナリーの現場のスタッフは、美味しい日本ワインをご提供したいと常に考えながら働いています。ぜひ、そのような日本ワインをご賞味ください。