ぶどうを除梗・破砕した後、温度コントロールのできるステンレスタンクにぶどうの果皮も種も全て入れた醪(もろみ)をアルコール発酵させていく赤ワインは、その状況を見極めてワインの液体を分離してあげるという作業を行ないます。発酵期間中に酵母によって生成されるアルコール分によって、果皮から色素が、種からは味わいのコクとなるタンニン分などの成分が抽出されるのですが、いつまでもそのままにしておくと次第に好ましくない苦味や渋味が現れてきます。なにごとも適度が大切ですが、この適度というのが非常に難しかったりします。そのタイミングを見極めるのは、分析データの数値ではなく、やはり、つくり手の嗅覚や味覚の五感に他なりません。
そして、そのタイミングになったと判断した際には、まず発酵を終えた醪から赤ワインの液体だけを引き抜きます。その後のタンクの中には、赤ワインに浸ったぶどうの果皮と種を含んだ醪が残っています。ちなみに、赤ワインの液体を抜いた醪は下には酵母のオリや種、上には果皮の多層構造になっています。そこにもかなりの量の赤ワインを含んでいますので、それをプレスして、その赤ワインを取り出す作業を行ないます。
白ワインは発酵させる前に、ぶどう果実をプレスして果皮や種を取り除いて果汁を取り出すのですが、赤ワインは発酵させた後に、醪をプレスして果皮や種を取り除いて赤ワインを取り出すというわけです。
登美の丘ワイナリーの新発酵室では、発酵タンクに残った醪をシャベルでかき出して、台車にのせて、プレス機に入れるためのキリンに運びます。キリンというのは登美の丘ワイナリーで呼んでいるコンベアリフトです。これによってプレス機に醪を投入するのですが、タンクから醪を掻き出して台車で、このキリンの間を何度も醪を入れて往復することになります。1本のタンクの醪は、かなりの量になりますから、想像以上にきつい重労働です。
そして、キリンによってプレス機に投入された醪は、円筒形の中の風船に空気が送られ膨らむことにより、プレス機の内壁と風船の間で圧縮されて赤ワインが滴り落ちてくることになります。一度のプレスではなかなか搾れませんので、風船の中の空気を吸引してプレス機の中に空間を空けてからプレス機を回転させることによって中の醪を一旦ほぐしてから再び風船を膨らませて醪を搾るという作業を繰り返します。今のプレス機は、あらかじめどれくらいの強さで何回プレスを繰り返すかということをプログラミングすることができます。
こうして含んでいた赤ワインをプレスされた後のプレス機に残った大量の醪粕は、プレス機の開閉口を開けてプレス機を回転させることで開閉口からザザーッという小気味よい音とともに排出されます。
その醪粕を手に取ると驚くばかりにサラサラしていて、プレス機がしっかり赤ワインを搾ってくれたのがよくわかります。そして、果皮とともに種が混じっているのがわかりますが、種の数が想像するほど見受けられないので再び果皮を見ると、ほとんどの果皮の中に種が含まれているのが確認できます。
発酵中にはこの果皮が中に種を含んだまま、ワインの液体の上部に炭酸ガスによって押し上げられていた(これを「果帽(かぼう)」といいます)のが想像できます。なので、味わいの抽出のために赤ワインの発酵中に液体を下から抜いて上からかける液循(=ルモンタージュ)という作業が、いかに重要なのかが納得できます。(「赤ワインの発酵管理」の記事)
そして、この醪をプレスすることによって得られる力強い味わいのプレスワインが、アッサンブラージュ(=ブレンド)の際に味わいの骨格になるということも理解できます。
このようにしてアルコール発酵が終了した赤ワインは、さらに次の工程に引き継がれていきます。
この後まだまだワインを見守り育成し品質を造りこんでいくのですが、その様子は後日またレポートさせていただきたいと思います。