先日のマスカット・ベーリーAに引き続いて、登美の丘ワイナリーでは「ジャパンプレミアム 甲州新酒2015」の仕込みを開始しました。
日本ワインを代表する日本固有のぶどう品種である甲州は、もともとはヨーロッパ系のぶどう品種であり、シルクロードを渡って日本にたどりついて、日本の環境に適合して古くから栽培されるようになったそうです。薄紫色の甲州は「バラ房」と呼ばれるくらいに粒と粒の間が開いていて風通しよく皮も厚めですので、湿潤な日本でも病害に強いのが日本に適した要素なのでしょう。そして、この皮にかすかな渋味をもつのがこの甲州の特長でもあり、このかすかな渋味を持つ味わいがまさに日本の食にピッタリと寄り添うものになります。
この日、実に15tもの新酒用の甲州が山梨県下から集荷されて登美の丘ワイナリーに届きました。
朝礼時には10tトラック2台がすでにコンテナヤードに待機していて、醸造スタッフたちは朝礼後すぐさま荷降ろしの作業に取りかかりました。いつものことながら舟に移す作業は圧巻です。
届けられた甲州は、澄んだ香りをたたえる薄紫の熟した果実からの甘さをしっかり感じる房があったり、まだ緑のニュアンスを残す果実からはフレッシュな酸味を感じる房があったりと混在しています。
まさに新酒の味わいのフレッシュさとフルーティさをワインに引き出すための果実といえると思います。
今年の甲州新酒の仕込みでは、よりいっそうの品質向上への新しい取り組みを行ないました。
先日のシャルドネでもお伝えした「ホールバンチプレス」というものです。バンチ(BUNCH)とは房という意味。つまり除梗せずに、房のままプレスすることにより、よりきれいな果汁を得ようとするのが狙いです。この日の15tの甲州は全て「ホールバンチプレス」で果汁を取り出しました。
ホッパーに投入されたぶどうは、除梗せずに房の状態で果梗のついたままプレス機に送られます。登美の丘ワイナリーの破砕場の中で一番大きなプレス機ですが、このプレス機も先日のシャルドネの仕込みでご紹介したプレス機と同じように、プレスした果汁が下に滴り落ちるのではなく、中にある配管を通して果汁がやさしく集められるタイプのプレス機です。極力、果汁を酸素に触れさせない設計です。
投入されたぶどうは15tもの重さに粒がつぶされて自然に果汁が出てきます。プレスしないで得られるこの果汁は香り高く雑味が少ないのが特長で、俗に「フリーランジュース」と呼んでいます。
そして次にプレス機の中にある風船が膨らんで果実を内壁に押し付けて絞っていくわけですが、「ホールバンチプレス」では、ぶどうの果梗が果粒から流れ出る果汁の通り道になってくれるので、想定通り、圧力をあまり強くかけないで、きれいな果汁を得ることができたように思います。これからの発酵が楽しみです。
週末にも甲州がさらに搬入されましたが、一部を先日の自家ぶどう園のシャルドネの仕込みの際にご紹介した、内部を窒素で充填するタイプのプレス機を使用して搾汁しました。除梗して果実の粒のみをプレス機の円筒内部に投入してから内部の風船を膨らませて果汁を絞り、風船が萎む空間に通常の空気ではなく窒素を充填し、再びプレス機内の風船が膨らんで果汁を絞る際には外の風船が膨らむという仕組みなのですが、こうすることで搾汁時の酸素との接触を極力押さえて、甲州のきれいな果汁を得ることが狙いです。このように新酒らしいフレッシュな味わいを実現するために、登美の丘ワイナリーでは様々な新しい取り組みを行なっています。
プレス機内へ窒素充填中
爽やかな果実の香りがワイナリー全体を包み込んでくれる仕込みがこれからも続いていきます。
登美の丘ワイナリーの自家ぶどう園での収穫もあり、購入ぶどうの仕込みもあり、仕込んだワインの発酵管理もあり、登美の丘ワイナリーはまさに一番忙しい時期に突入しています。
渡辺所長は毎日のように「ワイナリーの全てのスタッフが連携して、よりよい品質のワインづくりを目指していこう!」と檄を飛ばしています。忙しい現場ですが、ひとつひとつの作業行程を着実に行なう緻密さと、さらに品質をもっとよくしたいという志を持って取り組んでいます。この日も、醸造のスタッフから現場視点で、もっとここをこうしたらいいんじゃないかと品質設計のスタッフに話しかけたのをきっかけに2人はすぐに話が盛り上がり、さっそくどうすればうまくできるのかの意見を交わしていましたが、こういう作業現場での立ち話が品質を作りこむための重要なコミュニケーションの場であることを目の当たりにしました。これが登美の丘ワイナリーだと思います。
「サントリージャパンプレミアム 甲州新酒2015」は、11月3日発売予定。乞うご期待です。
【サントリージャパンプレミアム 甲州新酒2015】