サントリー ワイン スクエア

登美の丘ワイナリー通信

ワインづくりの現場から

ワインづくり

自園産シャルドネの新しい仕込みの試み

今年は日照量が少なく、先日のリースリング・フォルテの収穫後、2015年の全体的な収穫スケジュールは少し見直され「ぶどうの糖度が上がるまでもう少し収穫を待つ」という事になりました。そのなかで、逆に例年よりも収穫時期を早くすることにしたシャルドネの区画があります。登美の丘ワイナリーの自家ぶどう園のシャルドネは9つの区画に分かれています。登美の丘ワイナリーでは、シャルドネを使ったワインとして、フラッグシップの登美の白と、登美の丘シャルドネの2種類を製造しています。ワインが2種類だからといって収穫や仕込みが2回ではありません。9つの区画は標高、斜面の向き、土壌も違い、植わっているクローンも違います。まずは、それぞれの区画のシャルドネの、それぞれの個性をいかす栽培管理をし、収穫適期を見定め、そのぶどうに合った仕込みを行ない、様々な要素を持ったシャルドネのワインを造るのです。そして、その様々な要素をアッサンブラージュ(=ブレンド)することで、登美の丘ワイナリーが目指すシャルドネの味わいを組み立てていくのです。

 

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今回例年よりも収穫を早くすることにした区画は仕込みでも新しいチャレンジをしています。それは、ぶどうを圧搾する時に、酸素との接触の極力ない条件下で行なうというもので、シャルドネとしては新たな試みです。そうする事で、果実そのもののみずみずしさとフレッシュさにあふれるワインにする目論見です。そのためにも、より爽やかな酸を残すべく例年よりも早い収穫に挑戦した訳です。
実際の収穫風景が下の写真です。1房1房に傘かけしたぶどうを摘み取り、1房ごとに不健全な粒があれば1粒ずつ取り除いていく根気の要る作業です。傘かけした紙は、全て回収するのですが、人によって違っていて、とても面白いですよ。1房1房ぶどうと傘を一緒に摘み取ってその都度、回収袋に入れるスタッフがいれば、紙だけ下に落しておいて移動する際にまとめて回収袋に入れるスタッフもいます、最初に1区画の傘の紙だけを先にはずして回収してからぶどうの摘み取りにかかるスタッフもいたりして、収穫人の性格が違うのが良く判ります。健全なぶどうを醸造スタッフに引き継ぎたいという気持ちは一緒です。
 

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そして、選果作業をおこない収穫したシャルドネは、下のぶどうが上のぶどうの重さでつぶれないようにコンパクトなコンテナに入れて、麓エリアの醸造棟に下ろします。

 

今回のシャルドネの仕込みが先日のリースリング・フォルテと大きく違うところのひとつに、除梗をしないというところがまず挙げられます。運び込まれたコンテナからぶどうは選果台の片側に並べられます。台の振動とともにぶどうがすこしづつ前に送り出され、両側にいる選果人が厳密に未熟な果粒や病気の粒を外していきます。途中のレーンに隙間があるので振動で外れた粒は下に落ちて、ぶどうの房だけが「キリン」と呼んでいるリフトコンベアでプレス機に送られるのです。

 

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登美の丘ワイナリーの通常のワインの仕込みでは、ぶどうの「果梗(かこう)」という、実の粒を支える房の中の茎の軸を取り除く「除梗(じょこう)」の作業から始まりますが、その際にぶどうの粒が、どうしても一部潰れてしまい、そこから流れ出した果汁は自然に酸化してしまうのです。りんごを切ってしばらく置いておくと、切り口が茶色く変色してみずみずしい香りにちょっと異質な香りを感じるアレです。「ホールバンチプレス」と呼ぶ、房ごとつぶして果汁を取り出すこの方法では、プレスして果汁をしぼる直前まで破砕されないので果汁が酸素にさらされません。

 

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プレス機に送られたぶどうの房は円筒の中でしぼられます。今回のプレス機は、通常のプレス機と異なる特殊な構造をしています。通常のプレス機は横に長い円筒の中央部分に風船があり、それが膨らむ構造をしています。それによってぶどうが内壁に押し付けられて、果汁が円筒に開けられたスリットから下に滴り落ちます。下には果汁を受ける所があるのですが、滴り落ちるとき、そして下の受けに入っている間、果汁は酸素にさらされています。この新しいプレス機は下に滴り落ちるのではなく、中にスリットの入った配管が作ってあり、そこから果汁が集められ直接タンクへと送られる構造です。果汁をしぼる時、風船を膨らませるのは1回だけではありません。何回か風船をすぼめたり膨らませたりしぼるのですが、風船がすぼむ際に円筒の空間には通常であれば外気が入り込むことになります。このプレス機は外気の代わりに外に吊るされた大きな風船の中の窒素を吸い込んで空間を窒素で満たします。プレス機の中の風船が膨らんでいる間は外に吊り下げられた窒素の風船が膨らんで待機していて、プレス機の中の風船がしぼむ時に窒素がプレス機の中に吸い込まれるので外の窒素の風船はしぼみ、それを何度も繰り返すのは見ていて非常におもしろいです。こうする事で、出来るだけ酸素に触れていない果汁がとれるのです。 

 

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プレス機内に窒素ガスが移行した状態 プレス機から窒素ガスが回収された状態

 

この日は、1tのシャルドネをしぼりましたが、プレスした果汁は一旦1つのタンクに移します。
一部ポンプを使用していますが、新発酵室のタンクは、果汁をプレスする隣の破砕場よりも低い位置にあるので、果汁は重力に逆らわずに自然に移動するという流れになります。近年のワイナリー設計の世界では、これを「グラビティフローシステム」といって盛んに注目を集めています。海外のワイン醸造学の権威が何十年も前に登美の丘ワイナリーを訪れた時に、昔からこの考えを持ったワイナリーとして非常に驚嘆していたという話をきいたことがあります。


平地でグラビティフローシステムを導入しようとするとワイナリーを何層かの構造にする必要がありますが、登美の丘ワイナリーは山の斜面に位置するワイナリーですから、ある意味自然に出来たのです。でもワイナリーで働くスタッフは、場内の坂道を何度も何度も往復するのは大変なんですよ。

 

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      写真の奥の階段が破砕場の地上レベルでタンク群はそれより低い位置に置かれています

 
そして、タンクに入れられた果汁は1晩置いてスーティラージュ=「清澄化」します。品質グループがその状況を確認してから発酵工程へと続きます。先日のリースリング・フォルテは、ステンレスタンクに入れて発酵させましたが、今回のシャルドネは、約225Lのバリックといわれるフレンチオークの樽に入れて発酵させていきます。
樽発酵については、また後日詳しくレポートさせていただきます。

 

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今回のように酸素との接触を極力させないで仕込むということはシャルドネでは初めての試みです。
たとえば、ソーヴィニヨン・ブランのような果実香を大切にしたい品種においては、酸素との接触を極力抑えるこの仕込みが非常に有効であることは昨年までの経験で実感していましたが、シャルドネがこの方法でどのような香味になるのかを実際にやってみて確認してみようというのが今回の狙いです。
従来の方法でのシャルドネの仕込みもこれからこれからおこないます。来年の年明けに今年醸したワインを一堂に集めてテイスティング会が開かれます。今までのシャルドネとどのように違うのか、今から楽しみです。
このように、より多くのお客様に「美味しい」と喜んでいただきたいがための様々な取り組みを登美の丘ワイナリーでは行なっています。そんな登美の丘ワイナリーのシャルドネのワインも多くございますのでぜひいろいろお試しください。それぞれのヴィンテージ(収穫年)違いのシャルドネ同士を比較して飲んでみるのもワインの楽しさのひとつと思います(それぞれの詳細情報もぜひ参照してみてください)

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