自家ぶどう園のぶどう達が順調に生育している一方で、登美の丘ワイナリーの樽熟庫では熟成中のワインのバトナージュと樽熟成を終えたワインの樽空け作業が進行中です。
バトナージュとは、熟成中のワインを棒(バトン=Baton)で攪拌するところから、バトナージュ(Batonnage)と呼ばれています。一見すると、まるでゴルフのパターを思わせるような棒の形状は、ゴルフ好きなスタッフの遊び心からというわけではありませんが、バトナージュをするために登美の丘ワイナリーが特注したオリジナルです。
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バトナージュは、樽の中で発酵を終えた酵母がオリとなって樽の底に沈殿しているのを、熟成しているワインと攪拌することにより、酵母の旨みをワインに移行させるとともに、ゆるやかな熟成を促進させるという効果があります。発酵後のワインを一定期間発酵を終えた酵母のオリと静かに接触させて味わいに厚みを付与するシュール・リー(オリの上というフランス語)という醸造法がありますが、バトナージュは、それをより積極的にワインに働きかける作業と言えるでしょう。外観的には、バトナージュを行なうと、底に沈んでいたオリが上に舞ってきてワインと混じり白濁してくるのがよくわかります。
バトナージュ中 |
バトナージュ後 |
この日撮影したのは2014年産のぶどうを樽で発酵させた「メルロ&カベルネ・ソーヴィニヨン ロゼ」ですが、それぞれのワインの目指すべき味わいをイメージして、バトナージュのタイミングや週に何回するのかの回数などをその時々のワインの状態を見極めて判断していくワインのつくり手には、鋭いテイスティング能力とワイン醸造に関する知識と経験が必要とされます。
また、この日は、同じく樽熟庫で、樽熟成を終了したワインの樽空け作業も同時進行していました。
樽空けとは、樽熟成を行なった後のオリの沈んだ上のワインを取り出す作業なのですが、樽の中にノズルを差込み、別のチューブで上から空気を送りこむことによってワインがノズルを通ってホースを介し別の小容量タンクへと移送されます。そのノズルの途中には透明のガラス管の部分があり、ライトを後方から照らすようにしてみることにより、通過しているワインの透明度を確認できるようになっています。
上澄み部分のワインが全て移動して下のオリの部分が出てくる段になれば、ガラス管を通過するワインの色が濁りすぐに確認することができますので、すぐにレバー操作をして移送作業をストップするわけです。
ひとつひとつの樽の状態によってオリの状態は異なり、ストップするタイミングは違うので、しっかり見ていないとオリまで移送してしまうことになりかねません。気が抜けない緊張感のある作業です。
樽に残ったオリの部分はしっかり濁っていてザラつきがありました。なお、空けられた樽は熱湯でしっかり洗浄し、次のワインを詰めるまでしっかりとワイナリーで管理していきます。
この日は、ジャパンプレミアムのメルロ2013の瓶詰めのための樽空けでしたが、一樽一樽、樽からあけられたメルロのワインは、一旦ブレンドタンクに集積されて瓶詰めする量全体を均一化するための工程に引き継がれ、瓶詰めのための準備が進められます。
オリをワインに混ぜ込んで味わいに旨みを乗せていく「バトナージュ」、オリが入らないように上澄みのワインだけを取り出す「樽空け」。
今回、ご紹介したのは、ある意味、全く反対のことをやっているわけですが、それぞれの作業は、それぞれのワインの状態を見てあげて、オリとワインを適切に人がすべきことをしてあげて、ワインの中味品質を作りこんでいくことにほかなりません。そのすべきことが本当に正しかったのかをいつも自問自答しながら、瓶詰めされた後のワインの味わいを何度も確認しながら、もっとよりよい品質を追及するために他にどう働きかけてあげればいいのか考えながら、登美の丘ワイナリーでは毎日ワインづくりに取り組んでいますが、ワインづくりは本当に奥が深いです。