第22回「ジャーマン・アメリカン」からのつづきです。
ジャズ、ブルース、カントリー&ウエスタン、ロックンロールなどアメリカ音楽には幅広いジャンルがある。ひと言で「一様ではない」と片付けるほうが懸命なのかもしれないが、冷静になって見つめ直してみると黒人音楽から派生したものや、多民族国家らしい融合によって発展したものであるとわかってくる。
好きな曲のひとつに『サマータイム』がある。1935年、ジョージ・ガーシュインが発表したミュージカル『ポーギーとベス』の中で歌われている曲だ。作品の舞台は1920年代とされているが、19世紀と変わらぬ過酷な黒人社会を描いた物語に、ブルース感覚の子守り歌『サマータイム』が温かいやすらぎをもたらす。
この曲を聴くと、浮かんでくるのがミントジュレップ。南部の人々が暑気払いに飲んだドリンク。バーボンやライ、あるいはラムがなくても、グラスに砂糖、水、ミントの葉があればノンアルコールでも爽快な気分になれる。黒人たちもミントジュレップを飲みながらブルースを歌ったのではなかろうか、そんな想いにさせる。
ブルース調のこの曲から、わたしの場合は19世紀の黒人社会やアメリカ音楽について遡ることができ、多少なりとも理解できるようになった。黒人社会の歴史を遡っていくとゴスペルに出会う。するとゴスペルの独特の世界はどうやって生まれたんだろうと知りたくなるのだ。
アメリカ南部にアフリカから連れてこられた黒人奴隷(アフロ・アメリカン)たちは、ヨーロッパ系白人農園所有者たちにキリスト教を押し付けられた。聖書を読めない彼らは歌にしてイエスの言葉を覚えた。それがSpirituals(黒人霊歌)であり、ゴスペルの源である。このゴスペルがリズム&ブルースやソウルミュージックへの流れを生んでいる。
南北戦争の最中に合衆国大統領エイブラハム・リンカーンが南部連合国側の奴隷解放を宣言し、解放運動が盛んになっていく。そして終戦後の解放により、アフロ・アメリカンはそれまで口ずさんでいた霊歌から、神を賛美して歌い踊るゴスペル(Gospel)の世界を生み出す。
God(神)とSpell(言葉)。自分たちの人格を尊重してくださる神に感謝する、その喜び、祈りを表現したのがゴスペルである。
ただし、彼らは自由を得たものの自分たちのチカラで何かを開拓していくしかなく、解放の反動として新たな差別が生まれ、経済状況は以前よりも悪化する。結局は小作農として生きていくしかなかった。