第22回「ジャーマン・アメリカン」からのつづきです。
マンハッタンと対岸のブルックリンを結ぶニューヨーク・ブルックリン橋。イースト・リバーに架かるこの橋が開通したのは1883年5月24日だった。完成までに14年の歳月を要している。
全長1,825メートル。当時の吊り橋としては世界最長であり、世界ではじめて鋼鉄のワイヤーを使った橋でもある。設計者はドイツ系アメリカ人のジョン・オーグスタス・ローブリングで、建設開始を前に他界したために息子夫婦に受け継がれて完成した。
いまも観光名所であり、数々の映画のシーンに登場するが、この橋は19世紀末アメリカの象徴だった。富と産業の発展を世界に誇示し、世界都市ニューヨークを強く印象づけた。国内においても社会的なリーダーとしての中心が文化の街ボストンから、事業の街ニューヨークへと移ったことを知らしめた。
19世紀にアメリカは大きく動いた。産業革命によって魅力的な国としてヨーロッパからの移民がさらに増える。1830年代、まず東部に産業革命の波が押し寄せ、それにより1840年から1920年までの80年間にヨーロッパを中心に3,700万人という驚くべき数の移民がアメリカに流れ込む。
80年の間、ドイツから600万人、イタリア475万人、アイルランド450万人、イングランド・スコットランド・ウェールズ計420万人、オーストリア=ハンガリー帝国420万人、ロシア(ポーランドやリトアニア含む)330万人、スカンディナビア230万人といった移民の記録が残る。貧窮や宗教的脅威から逃れ、親族のつながりと経済機会を求めてアメリカに引きつけられたのだった。多くの移民たちは工場労働者や自ら耕作可能な土地での農業に従事していく。
とくに南北戦争後、大陸横断鉄道が完成してからは産業革命が本格化。経済発展は加速し、アメリカ人の道徳観、価値観は大きく変わる。拝金主義、事業欲、物欲が正当化された。ブルックリン橋はそんな時代に建設されている。
ミリオネア、大富豪が続々と誕生した。海運業から鉄道王となったヴァンダービルト家(オランダ系移民)、鉄鋼王カーネギー家(スコットランド系移民)、石油王ロックフェラー家(ドイツ系移民)、鉱山王グッゲンハイム家(ドイツ系移民)、金融界と産業界を支配したモルガン家(ウェールズ系移民)などである。
これら財閥の象徴の一端をマンハッタンで見ることができる。ヴァンダービルドはグランド・セントラル駅、カーネギーはカーネギー・ホール、ロックフェラーは毎年クリスマス・ツリーで話題になるロックフェラー・センター・ビル、グッゲンハイムはグッゲンハイム美術館、モルガンはメトロポリタン美術館の設立後援者であり、名高い数多くのコレクションを寄贈している。